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楠木正成②

山道……。天からの光を遮る木々、傾きが大きい道のり。昨晩の雨のせいか、山の中はしっとり湿っていた。


なぜ車を使わないのか分からなかったが、家老の爺やの言うことを聞いて、ひたすら前に進んだ。


そして、夜になっても、その山を超えることはなかった。


山の中の野宿は、石の枕が固かったが、寝袋の温もりは思ったより温かった。


そんなこんなで、八歳だったボクが、爺やと二人で山を超えると、そこには、直方体の家々が立ち並ぶ里があった。


整備された道路と家を挟む塀は、3m以上あり、そのような塀は、この里にある家全てに備わっていた。


まず、そこの村長に挨拶し、里にある家の一軒一軒にも「これからよろしくお願いします」と言った。


爺やは言った。


「ここが今日から多聞丸(ボクの幼名)坊ちゃんの暮らす『伊賀の里』でございます」


伊賀の里……聞いたことはある。


子どもに人気の忍者が有名だからだ。


しかし、それはボクにとってフィクションに登場する舞台であり、本当に実在するとは思わなかった。


周りを見ると、山に囲まれ、外に出るための交通手段が徒歩しかないというのは、不便極まりないと思う。


だが、それこそが、伊賀の里が独自の文化を築いた要因であり、発展のキッカケでもあるのだ。


そして、爺やに今日から住む寮に連れていってもらうと、玄関から一人の少女が現れた。


彼女は、髪型がベリーショートで、ワイシャツやズボンといった服装のため、ボーイッシュな印象を与える。というか、見た目はまんま美少年で、声が高くなければ、ボクは彼女を男性だと思っていただろう。


「初めまして、オレが今日からお前と同部屋になる、○○だ。よろしく」


彼女は握手を求めて、右手を差し出す。


その右手を握ろうとボクも右手を前に出した。


「よろしくお願いします……『お姉ちゃん』」


そのときのことは忘れない。彼女の目つきが一瞬で変わった。


クリッとしていた目は、切れ長になり、ボクに殺意を向け、恐怖を覚えさせた。


自分から求めてきたのに、その握手をやめて、差し出した右手でボクの手を払った。


「痛いっ!」


ボクはじかれた右手の手首を握る。


右手は赤く腫れて、それを見て、ボクは涙目になった。


蔑んだ目で彼女は放った。


「オレのことは『お兄ちゃん』と言え。オレは女じゃない」


そのとき、彼女が何を言っているのか分からなかった。


それがボクと彼女の出会い。


まだ彼女が加賀ではなく○○と名乗っていた頃である。




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