青春の始まり⑦
第ニ江ノ島についた僕たちの目の前には、ヴァサラを使って立ち振舞う、義貞と直義がぶつかり合っている。
二人とも負けず嫌いだから、どっちも一歩も引かずに、意地と意地でぶつかっている。
本来は、ヴァサラを使った戦いは、自分に合った専用のものを使って、行われるが、今回は、演習のため、演習用の太刀の形をしたヴァサラを使っている。
そのため、二人は、自分の力が十分に発揮されていないように思えた。いや、実際にそうだろう。
しかし、それでも二人は二,三年の一位だから、今の最大限の力を出している。
「やっぱり、あの二人を止めることなんてできないよ!」
「だから、言ったでしょ。策があるって」
「何なんだよ。その策っていうのは?」
あの状態の二人に、僕が止めに入るのは、自殺行為である。
僕が最下位であるし、しかも、保健室からそのまま来たから、格好が学ランのままなのだ。
本当に、死んでしまっても誰も驚かないだろう。
そんな、僕が二人を止める方法なんてあるのだろうか?
僕は加賀の顔を見る。
加賀は、ゆっくりと唇を動かす。
「ヴァサラを二つ使うのよ」
…………。
僕の頭の中は、真っ白になった。
「えっ!? ヴァサラを二つ使う!?」
僕は、加賀の言葉に驚いた。
というのも、ヴァサラを二つ同時に使った人は今まで誰もいないし、不可能だと思われているからだ。
「そうよ」
「だって、僕は一つでも動かすことができないんだよ! 絶対、無理だよ!」
「違う」
加賀は、真剣な面持ちで僕を見つめる。
「一つだから、無理だったのよ」
「どういうこと?」
「私は、あなたが初めて授業で、ヴァサラを手に取ったときのことを覚えている。それは、刀みたいな形をして、鍔の部分の光が回転するようになってたでしょ。
そして、その速度がどれだけヴァサラ遺伝子を動かしているのかの、目安なの。
高氏が動かしたとき、今まで見たことないぐらい、高速に回転したの。
つまり……」
つまり……それって……。
「あれは、高氏の力に、ヴァサラが耐えきれなかったのよ」
「そ、そんなバカな……!」
僕は驚いた。というよりも、信じられなくなった。
「そんなバカな話あるわけないじゃないか!」
僕の中の何かが爆発した。
「加賀も知ってるだろ! 僕は足利家の落ちこぼれで、何もできないんだよ!」
そう、僕はもう自分に期待しないし……。
「 昔から、貧弱で! いじめられて!
兄さんに追いつけないし! 直義にはあっという間に抜かされるし!」
自分を励まそうなんてしない。
「加賀は、そうやって、僕を嘘で励まそうとしてるんだろ!」
いや、自分を信じる勇気が足りないのだ。
自分のために、勇気を出すことができないのだ。
そして……先輩にすら、勇気を出せなかった。
「僕は、どうせ、ダメなんだ!」
彼女はただひたすら目をつぶって僕の話を聞いてる。
その一言一言をすべて受け止めようとしてるように見える。
「言いたいことは言ったね」
そう言うと、加賀は僕の手を握った。
そして……。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
僕を豪快に背負い投げした。
僕は背中を強く打ち、「痛ッッ!」と声を上げる。
「何するんだ! ……よ」
目を開けると、すぐ目の前に加賀の顔があった。
加賀は、正座をして、僕の頬に手を添えて、僕の目を力強く見つめながら、言った。
「あんたが自分を信じられなくなってるのは、知ってる。毎日、死んだ魚の目みたいに、つまんなそうに生きてることも知ってる。そして、何よりも、ヴァサラにコンプレックスを持ってることを知ってる」
加賀は、微笑む。
もしも、女神がいたら、こんな顔なのかな、なんて思った。
「自分を信じられないなら、あんたを信じる私を信じたら?」
男らしい。女だったら惚れちゃうかもしれない。
だからこそ……信用できるんだよな。
「ああ、そうするよ」
僕は立ち上がり、加賀のヴァサラを一本、手に取る。
「ああ、加賀先輩! どこ行ってたんですか!?」
一人の小柄な少女が僕たちのところに駆け寄ってくる。
たしか……登子ちゃんだっけ?
「あれ? 高氏先輩じゃないですか? なんで、ここに」
「ちょっとね。登子ちゃん。君のヴァサラを貸してもらえないか?」
「え? どうしてですか?」
「あいつらを止めるために」
「え? …………。まあ、いいですけど」
不信感を感じながら、彼女は僕に貸してくれた。
「やり方は分かる?」
「まあ……理論的には」
「じゃあ、いってらっしゃい!」
加賀は僕の背中を強く押す。
僕は「ふぅ」と息を吐き、ヴァサラに神経を集中する。
両方同時に機能するように、イメージする。
ウィィィィィィィィィィィィン、と、ヴァサラの光の輪が回転し始める。
僕の体のそこら中にあるヴァサラ遺伝子とその両刀が繋がっているのを感じる。
その不思議な気分を感じていると、僕の心は今まで体験したことのないほど、水面のように静かになった。
行くよ。
僕の体は、まるで光のように、進み出した。
足は、地面についていなく、地面に平行になりながら、進む。
リニアモーターカーになった気分だ。
そして、気がつくと、僕は、義貞と直義の間に割り込んだ。
そして、僕は半球体のシールドを展開する。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
そして、その光は、二人を制し、目的を果たすと、収縮し、僕の体に飲み込まれていった。