作戦執行
僕がそのまま道路の上で寝込んでいると、直義がやってきた。
「兄貴大丈夫か!?」
お前が登子ちゃんに命令したんじゃないか……。
そんなこと思いつつも、僕は答えた。
「大丈夫……。ちょっと誰かにやられたけど、なんかとか退散させたよ」
この嘘には理由がある。
登子ちゃんは、僕たちを事件のどさくさに紛れ襲うために、源氏嫌いの長崎円喜が送った刺客。
だから、このまま、仲良くホテルに帰ったら、円喜さんに逆らったことがバレる。
しかも、円喜さんは実質的な幕府の統率者。
円喜さんに逆らうというのは、幕府、つまり、この国に逆らうことになるのだ。
登子ちゃんの立場を考えて、直義は、極秘に僕のホテルへの帰省を彼女に託した。
少々強引なやり方だけど、そうでもしなければ僕が止まらないと直義は思ったのだろう……。たしかにその通りだ。
直義には、僕を襲ったのが登子ちゃんだと分からなかった……ということにしておこう。
僕は鈍感でありたい……何も知りたくない。
二人が協力していたことも……。
登子ちゃんが僕を殺しに来ていたことも……。
でも、いつかは知らなければいけないことだ。
義務や使命に、僕の感情など、全く必要ないのだ。
「とりあえず、体が痛いから、ホテルに戻るよ……。ごめんな。勝手なことして……」
「俺だって、兄ちゃんが人質になったら、そうしてたと思う。気持ちは分かるよ。でも、間違った判断だと思う。後は俺達に任せてくれよ……」
俺……「達」?
ちゃんと両目を開いて直義を見てみると、直義の後ろにガンランスと盾が置いてあった。
さらに後ろには、剣を持った義貞と……。
「お久しぶりです。高氏さん」
「あ……一親さん……。なんでここに?」
「直義さんから『すぐに俺達のヴァサラを持ってきてくれ』と連絡がありまして」
なるほどな……。直義と義貞のことだ。僕と同じくらい居てもたってもいられなかったんだろう。
よく見ると、一親さんも自分の銃を持っている。
「で、お前はどうするんだぁ? 高氏ぃ」
何かを楽しみにしているように、義貞が聞いてくる。
分かってるくせに……。
僕は軽く義貞を睨む。
「こうして寝ている場合じゃない……よねっと」
僕は立ち上がってズボンについたホコリを払う。
「僕も行っていいかな? 直義?」
さっき「任せてくれ」と言った直義に許可を得なければ、僕は黙ってホテルに戻るだけだ。
ため息をついてから直義が言う。
「ごほん……。別にいいよ。兄貴一人じゃ心配だけど、俺達がついてるしね」
「ありがとう……」
さてと……。
僕は拳を握る。
もう、「あいつ」に飲まれたりはしない。
そう誓った。
▷▷▷▷
(あれ?)
兄の髪の毛に砂がついていたことに気づいた直義は、その砂をとる。
それを見つめて彼は思った。
(これは……砂羅?)
砂羅とは、ヴァサラの主原料であり、この砂のおかげで、ヴァサラ遺伝子とヴァサラ粒子の通信が行われやすくなるのだ。
それ以外にも、強度が高いことから、コンクリートの代わりに使われたりする。
(なんでこんなのが髪の毛に?)
そう疑問を持つ直義の後ろでは、不自然に削られた、電柱が倒れていた。
そうまるで「その部分が消えてしまったように」削られた電柱が、だ。




