表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/111

内通者⑤

(逃げなきゃ!)


登子は、ヴァサラへの操作に集中し、それをパワーを上げることだけに注ぐ。


さっきはびくともしなかった体が少しずつ動き始める……。


(よし!)


そのまま力のままに、体に絡み付いたチリを吹き飛ばす。


その光景を、高氏は首を90°曲げながら見つめる。


猫背と開いたままの口は、優しい穏やかな高氏とは遠く離れた、不気味な雰囲気を醸し出している。


自分の知らない高氏の姿に登子の体は震え息を呑んだ。


その瞬間、黒い手が高氏の背中から登子へ襲いかかる!


慌てて登子は、刃に光を灯し、それを黒い手目掛けて放つ。


光の弧は黒い手を裂いたがすぐに光が薄くなり消えていった。


いや、というよりも、それは黒い手に吸収されていったように見える。


(光を……吸収した……?)


そして、裂かれた黒い手がまたくっつき、一つの手を形成する。


そのまま、登子を捕まえようと襲いかかってくる。


これはもう逃げるしかないと悟った登子は元いたビルの方を向く。


そして、スピードを上げることだけに集中し、ビルに向かって駆け出す。


そのまま登子はビルの壁を「走って」登り始めた。


今の登子のスピードなら、体が重力に負けて落ちるより先にビルの頂上に着くはずだ。


このビルは百二十階建て。


少しでもスピードを緩めると、ビルから足が離れてしまう。


走ることだけ、駆けることだけに彼女は集中した。


すると、登子の後ろからドシンドシンという音と、鏡が割れる音が聞こえてきた。



高氏である。


高氏の背中から生えたチリでできた大きな黒い手が八本。それらがまるで蜘蛛のように壁を掴んで移動しているのだ。


中央にいる高氏は、目を赤く光らせながら、「待てぇ゛、待てぇ゛」と叫ぶ。



でも、登子は、振り向くことなく上へ上へと昇って行く。


落ちないように落ちないようにと、速く速く駆けていく。



しかし……。


「ぅお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」



後ろから一本の黒い手が伸びて登子を捕まえようとする。


その手が段々と段々と大きくなり、その影が登子を覆う。


(えっ?)


それに気づいた彼女は、つい焦りスピードを上げた。


それは微かに彼女に当たらなかった。


しかし、彼女に当たらなくても、その黒い手は、ビルに突き刺さった。



その振動で登子の足がビルから離れる。



まずい………。



その体は、重力に従ったまま、下につまり高氏のところに落ちていく。


死ぬのは嫌だ。死ぬのは嫌だ。生きたい、生きていたい。



でも……。



好きな人にならいいかな……。



登子は目を閉じ、自身の最後を待つ……。


目を閉じても、ビルの屋上にある複数のライトのせいで、眩しく思えた。


複数の手が捕まえるために、彼女を受け取るように構えた。


その手が絡み合い、ついには、牙の生えた口の形になっていった。



「い゛ぃ゛ただきぃ゛ま゛ぁ゛ぁ゛…………」


…………………………………………………… ……やめろ………………………………。



「ん゛ん゛?」


登子を喰らおうとした口は、無数のチリは、形を保つことができずに崩れさった……。


そして、崩れ去るチリの中にいた、一人の青年が少女を抱き抱え、一緒に、街灯に照らされたアスファルトへ落ちていった……。



少女が傷つかないように、しっかりと彼女の頭を腕で包み込んで……。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ