内通者②
「えっ……?」
僕の驚きを表すかのように、地面が大きく割れた……。
僕のすぐ左隣に、まるで、イナズマのようなマークが記される。
彼女、赤橋登子の大きく振りかぶった一太刀によって、だ。
その勢いで、彼女の体も宙に舞い、前に一回転する。
そして…………。
「いやぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
彼女の気合いのままに、その回転の勢いのままに、僕に向かって、太刀が振り落とされる……!
▷▷▷▷
「た、大変ですッ!」
大広間の扉が開くと、直義が冷や汗をかいた青ざめた顔で言った。
あまりの焦りように、大広間にいた、義貞と佐々木は、扉のほうに振り向く。
「どうしたんだ? 直義?」
「そうですよ。そんなに慌てて……」
「兄ちゃんがッ、兄ちゃんが部屋にいないんだッ!!!」
「「えッ!?」」
二人は、直義について行き、直義は、そのまま、高氏の部屋に向かう。
たしかに、そこには、高氏の姿は見当たらなかった。
「寝る前に、状態を確認しようと入ったら、どこにもいなくて……」
「チッ……! あいつどこ行きやがった……ッ!」
「もしかしたら……我々の話を盗み聞きして、局さんのもとに向かったのかも……」
それはたしかにありえると、二人は思った……。
二人は否応なしに高氏の部屋から出ようとする。
「今から行って何になるんですか?」
佐々木が冷淡な口調で、彼らを止める。
「今のあなた方には、ヴァサラがない……。今のあなたたちにできることはありません!」
「でも……兄ちゃんがッ!」
「そうだ! 身内が危ない目に合ってるのに、何もしてないわけにはいかないだろッ!」
「冷静さを失っているあなた方が……今、正しい判断を下していると思うのですか……?」
佐々木は力強い小さな叫びで、潤んだ瞳で、震える拳で、彼らに訴えかける……。
三人の肺が内側から胸を圧迫する。
しばしの沈黙の後……直義は、冷蔵庫から500mlのペットボトルの水を取り出し、それを口から体に無理矢理放り込む。
喉仏が何度も振幅し、その中身を一気に飲み干す……。
そして、そのペットボトルを持ったまま、冷蔵庫の頭に叩きつける。
「すみません、佐々木さん……正気を失っていました……」
「いいえ……お兄さん二人が同時に危険な状態にいるのです……。狂信になっても、それが通常のことでしょう……」
佐々木は、義貞の顔を見て、「義貞さんも、冷静になってくれましたか……?」と問いた。
義貞は、舌打ちをして、右手で、右の太ももを、強く叩いた! 「クソッ!!!」
納得はしていないが、理解はしていた……。そんな義貞の判断であった。
佐々木は、説くように、提案した。
「今から、我々で、冷静かつ慎重に、打開策を考えましょう」




