内通者
急げ、急げ、急げッ!!!
急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げッッ!!!!!!
急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げ、急げッッッ!!!!!!!!!
僕は走るッ!
肺が押しつぶされそうだけど、脇腹が痛いけど、口呼吸で乾いた喉が悲鳴をあげてるけど、それでも僕は走るッ!
助けなきゃ行けない! 局さんを、僕の彼女を、僕の恩人をッ!
僕は何も恩返しできていない! 僕には、恩返しする時間が必要だ!
六波羅探題軍としても、きっと、彼女を助けることよりも、反乱分子を倒すことが優先される。
つまり……人質が殺されるとしても、突入される可能性が高い……。
たしかに、この世界は、ゼロサムゲーム……。
誰かが利益を得るためには、誰かが利益を失わなければならない……。
だとしても……!
僕は歯を食いしばる。
重くなった足を精一杯動かす。
腕を力強く振る。
直義と義貞は助けに行くまで数時間かかる。
だからこそ、今、助けに行ける僕が行かなきゃいけない!
僕の体を動かしているのは、彼女の隣にいたい、彼女が隣でいて欲しいという僕の意志だ。
「あれ?」
僕は減速し、走るから、歩くに、そして、歩くから立ち止まるに変わった。
事件が起きたことにより、六波羅探題によって避難勧告が出た街……。
いつもは多くの人で埋まるが、今や閑散とした街の道路の真ん中で、僕は立ち止まった。
目の前に、人が現れた。見覚えのある少女だ。
「どこ行くんですか〜? た・か・う・じ・せ・ん・ぱ・い?」
少女、赤橋登子ちゃんは、後ろで手を組み、上半身を倒しながら、僕に上目遣いで視線を送る。
なんでここにいるんだ……。
そして、息を整えたとき、彼女の後ろに大きな刃があるのに、気づいた。
それは、彼女のヴァサラである太刀であった。
そうか、彼女は、僕の手伝いをしに来たんだ。直義と義貞も知っているのだから、彼女が知っていてもおかしくはない。
それに、勘のいい彼女のことだ。どこかで気がついてしまったのだろう。
そして、僕の手伝いを……。
「ありがとう、登子ちゃん……。さぁ、早く行こ……」
「あれれ〜? 先輩何か勘違いしていませんか〜?」
僕のご都合主義的な考えは、僕の頭から、チリとなり、風に運ばれ消えていった……。
彼女の太刀の刃先が、僕に向けられる。
彼女は、満面の、子どもっぽい可愛らしい笑顔で、僕に言った。いつものブリっ子の甲高い声とは違う、真剣な声で……。
「足利高氏。私、赤橋登子は、今からあなたを天誅いたします……」




