叛逆の始まり⑥
「これで良かったのですか?」
土岐さんがボクに問いかける。
これで良かった? 良かったとは、何に対して言っているんだ?
これで六波羅探題の軍に勝てるという意味で使っているのなら、良くないし、むしろ、悪い。
まず、土岐さんが反乱を起こそうという情報が漏えいしている時点で、土岐さんに勝ち目はない。
ただ、やられる前に行動しただけ……圧倒的不利は変わらない。
まあ、引き分けにはもつれ込むことができるだろう。
簡単にやられてもらっては、困る。
きちんと「データ」を残してから逝ってもらわないと……。
「今更そんな質問をしないでください。それに答えたところで、ボク達の行動は消えない……。少なくとも引き分けに持っていくことは可能だと思いますよ。重要な人質を一人預かっているんですからね」
「人質って……あの局とかいう女の子ですか? 彼女は……」
「足利家のご客人です。そして、高氏くんの恋人」
そして……彼女も人工的に作られた人間である。
▷▷▷▷
あれ? 大広間から明かりが漏れている。
今は深夜一時すぎ……皆が寝ている時間のはずだが……。
今のところ、このホテルには、僕たちしか泊まっていない。
と、いうことは、あそこにいるのは誰だろう……?
ゆっくりとその明かりに向かい、歩を進める。その扉に手で触れたとき、中から声が聞こえた……。
「局さんを助けることはできないんですか!?」
え? 局さんを助ける? 局さんに何かあったのか?
声の主は、義貞だろう……。僕は、そっと耳を扉につける。
「助けるように努力はします。しかし、反乱分子を鎮圧することが最大の目的です。六波羅探題としても、ベストよりベターを選ばざるをえません」
この声は、佐々木さんか……。
「しかし、あいつらなんで局さんを……!」
「それは、兄貴の恋人だからだろう。身内を人質に取れば、交渉が上手くいくと考えたんだ……」
局さんが……人質……!?
「とりあえず、四条御所を現在、我々六波羅探題軍が包囲しています。お二人は、専用ヴァサラが届き次第、お力添えを……」
「ヴァサラはいつ届くんだ? 直義」
「一親くんが、ここまで運んで来てもらう予定だよ」
「いつ頃到着する予定だ?」
「早朝くらいだと言ってた」
「クソッ!! もっと早く来れないのか!?」
「無茶言うな。自家用ヘリでは早いほうだぞ。とりあえず、それまで部屋で仮眠でもしたほうがいい……」
直義が大広間から出るために、扉の方へ向かう。
何のためらいもなく、扉を勢いよく開く。
扉の向こうには誰もいなく、しかし、直義は階段のほうから微かに足音が聞こえるような気がした……。




