叛逆の始まり③
「どうですか? 高氏くんの様態は?」
大部屋で待っていた佐々木が、直義に尋ねる。
「兄貴は、ぐっすり寝てます。精神的にも落ち着いてきたみたいですね」
「それは良かった……。高氏くんには、あれは厳しいものがあったでしょうに……」
「その言いよう、まるで前からその状況を知ってたようじゃねーか?」
義貞が目に力を入れて、佐々木を睨む。
心なしか、義貞の腕の血管が浮きでる。
「流石に知っていますよ……。しかし、どうしようもできないのです……」
「どうしようもできないぃ? なんでだよ?」
「壁の外は我々の管理外なので……」
「だからと言って、死にそうで苦しんでる奴らを見捨てるのかよッ!」
義貞は、組んでいた腕をほどき、寄りかかっていた体を壁から離し、拳に力を入れて、佐々木の方へ一歩足を進めた。
「落ち着いてください、義貞さん!」
登子が慌てて、義貞の前に出て、止めようとする。
大柄の男に小柄な女の子が両手を広げたところで、無意味なように思える。
しかし、義貞も男だ。女の子を殴るような極悪人ではない。
それに……。
「ごめんね。怖かったよね。お姉ちゃんとお部屋に行こうか?」
と言って、局がセイナを自分の部屋に連れて行った。
それを見て義貞も正気に戻るしかなかった。
義貞は仕方なく右の拳を左手で抑え、歯を食いしばる。
「助けたいのは山々なんです。しかし、管理外に干渉すると色々とめんどうなことがありまして……」
「じゃあ、それを管理下にしている人たちは何をしているんですか?」
直義が率直に問いただす。
「それは、彼らが元々住民票があるところから、その地域にやってきた者たちだからでしょう。つまり、壁の向こうを管理している地域にとっても、彼らは管理外になるのです。
今の法では、これを対処する術は残念ながら……」
「この国の法を統べる幕府を変えなければいけないということですか……」
直義は地面にしかめっ面を見せながら、右手の人差し指で耳の上をかく。
すると、直義はあることを思い出す。頭に刺激を与えたからだろうか。
そして、何故そんな大事なことを忘れていたのかと、自分に腹が立ち、心の中で自分を卑下する。
しかし、それは仕方のないことだった。この道中で、あまりにも多くの災難に遭遇した。忘れてもそれが人として当たり前のことである。
直義は、佐々木の目を見る。力強い眼力に、佐々木が少し驚いた表情を見せた。義貞も、登子も何事かと直義を見つめる。
直義は放った。
「高義の兄貴はどこだ?」
と……。




