叛逆の始まり②
あのあと僕は、門番の方々の措置で、早めに泊まる予定だったホテルに運ばれた。
すぐに局さんが駆けつけてくれて、僕の世話をしてくれた。
情けなく思ったが、そうでもしなければ、度々蘇るあのトラウマのせいで、僕は何度も嘔吐しそうになったし、実際に二度吐いた。
便座に顔を向けている僕の背中を、彼女は、優しくさすってくれた。
その後は、ベッドに横たわり、ただボッーと天井を見上げていた。
局さんが言うには、セイナちゃんは、無事に見つかったらしい。
見つけてくれた加賀も、その後、僕の部屋に顔を出したが、ほんの少しだが、あいつの顔がやつれているように見えた。
僕が「どうした?」と聞いても、「気のせい」としか返さないあいつに、苛立ちを覚えた。
それは加賀だけじゃない、直義、義貞もそうだ。
明らかに様子がおかしいのに、僕に何も打ち明けてくれない。
そんなにも僕のことを信用してないのか?
そんなにも僕は無力だと思っているのか?
そんな疑念が僕の首を締め付ける。
それも吐き気の要因の一つだった。
しかし、今の僕の状態が、その疑念を裏付ける。
こんな情けない僕を求めようとするのは、たしかに愚かな、馬鹿げた、間違った選択なのだ……。
「ちくしょう……」
僕は小さな声で、怒りをぶつけた。
その怒りは天井に反射される力もなく消えていく。
僕は、布団で顔まで覆って、目をつむった。
▷▷▷▷
「兄貴の様子は?」
「今はぐっすりと寝ています……」
「そうですか……。局さん、ありがとうございます」
「いいえ、直義くんもお水とかを買ってきてくれてありがとう」
喉に食事が通らない高氏のために、弟の直義は、水やゼリー飲料をホテルの近くのコンビニから買ってきて、部屋に届けに来たのだ。
佐々木からの連絡を受けて、局と駆けつけたときには、高氏は青ざめた顔色でベッドに横たわっていた。
高氏に事情を聞いて、二人もだいたいのことは分かった。その際に高氏の頭に「あれ」が呼び起こされ、高氏は嘔吐した。
百聞は一見に如かず……二人は、ただ聞いただけだから、そこまでの恐怖や悲しみを感じなかったが、実際に見てしまった高氏には、その光景はあまりにも見るに耐えられいものだったのだ。
その後、ホテルに到着した、加賀、義貞、登子にもこのことを伝えた。
彼らも、その信じられない事実に心を痛め、高氏の様態を心配していた。
「あ、そういえば」
直義はあることを思い出した。
「セイナちゃんのことですが、母親が見つからないため、俺たちで預かることになりました。そこで、局さんの部屋に泊めてもらっていいですか?」
「もちろん、いいよ。たしかに、加賀ちゃんに小さい子のお世話は難しいだろうしね」
「そうですね」
さっきまで曇っていた二人の顔に笑顔が戻った。
「とりあえず、皆、ホテルの大部屋にいるんで行きますか?」
「そうしようか」
二人は、部屋の冷蔵庫に、買ってきたものを入れて、高氏へメモを書いてから、大部屋に向かった。




