壁の向こう②
あたしこと加賀という人間は、気を遣う人間だ。
だからこそ、あのクジにもしっかりと細工をしてあった。
高氏と局ちゃんが同じ班になるように、と。
京という絶好のデートスポットで、高氏と局ちゃんを繋げようとするのは、あたしにとって当然の選択であった。
しかし、あたしはそれ以外の選択肢を指名した。
あたしの気遣いはあっけなく、折れ去ったわけだ。
理由としては、局ちゃんに頼まれたからだ。
局ちゃんが、恋人である高氏と一緒にデートをしたくないのか、と驚いたが、真相は違った。
彼女は、どうやら、あたしとお話がしたかったらしい。
もちろん、お話というのは雑談ではなく、お悩み相談だろう。
高氏には言えない、抱え込んでいるものをあたしに吐き出そうとしているのだ。
高氏にとって、局ちゃんは世界中のどの宝よりも価値のある人だ。
あいつの目には、局ちゃんは、どの金銀財宝よりも光って見えて、あいつの耳には、彼女の言葉は、釈迦の言葉よりもキリストの言葉よりも慈悲深く聞こえる。
そんな彼女が悩んでいるのを知っていたら、あいつは、旅行どころではなく、頭の中でそれがマッハで駆け抜けるはずだ。
しかし、それを局ちゃんは、望まないだろう。
高氏は、局ちゃんが自分のことで悩むのを好まないし、局ちゃんも、高氏が自分のことで悩むのを好まない。
だから、互いに相手への思いやりを述べようとしない。
互いに思いやりがあると言えば、理想的な二人にに思えるが、互いに本音が言えないと言えば、理想的だとは思いにくい関係だろう。
でも、良くも悪くも、お似合いの二人であるので、あたしは微笑ましく眺めている。
ここら辺で、閑話休題としよう。彼らのことは、あたし視点で語るべきではないと思うから。
語るべき人間では……ないのだから……。




