壁の向こう
大仏が鎌倉に発った。
それはボクにとっては驚きの情報だった。
ボクの計画の中で、大きな障害となりえた人物が、まさか京にいなくなったとは……。
もちろん、それはボクにとって嬉しいことなのだが、これに裏があるのではないかとボクは勘ぐってしまう。
こんな、ボクみたいな悪党も京に多く侵入し、尊治国王も幕府に反旗を翻そうとしているときに、幕府は何を考えているのやら……。
そして、大仏がいなくても、足利高氏、直義兄弟と、新田義貞がいるため、依然として、ボクは不利な状況の中にいるのだ。
見た限り、彼らは観光の「つもり」で来たらしいが、それは幕府の虚言で、本来の理由が他にあるのは明らかだ。
そして、彼らの内、数人はそれに勘づいているだろう。
決して、油断はできない。
必ず、成功させなければいけないのだから。
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僕たちは、佐々木さんに荷物を任せたあと、三つの班に分けて行動することになった。
流石に、七人で京を廻るには限界があったからだ。
加賀が持ってきていた水性ペンで、レストランにあった割り箸のの先を塗り、それを引くという昔ながらの方法で行った。
こういうとき、僕と局さんがくっつくように考慮してくれるのかなと思ったが、くじは至って公平に行われた。
結果としては、局さんと加賀、直義と登子ちゃん、僕と義貞の三班に分かれ、セイナちゃんは、僕と一緒に回りたいと言ってくれたので、僕の班で回ることになった。
義貞と共に行動するなんて何年ぶりだろう……小さいときからガキ大将体質だった義貞にとって、僕をいじめることは自分の威厳を維持するために必要だった。
今は、あの事件がきっかけで、考え方を変えて、昔のことを僕にわざわざ謝罪してくれて、僕たちは和解した。
「じゃあ、六時までにホテルで」
僕は、そう言って、皆に手を振った。
皆も手を振ってから、それぞれの行きたいところに向けて、踵を返した。




