青春の始まり⑤
「痛いッ! 痛いッッ! 痛いッッッ!」
「いいから早く来て!」
僕は、加賀に強く耳を引っ張られながら、連行されている。
結局、あのあとタイミング良く(?)、加賀が、「大変だから来て」と血眼でやって来て、僕はそのまま連れ去られたのだ。
一応、目が点になっていた先輩に「すみません! また今度!」と言ってから保健室を出た。
「てか、何があったんだよ!?」
先輩との悪い空気から逃げられたことには、感謝するが、全く、何も説明なく、連行されていることには腹が立つ。
しかも、耳めっちゃ痛いし……。
「大変よ! 直義と義貞のやつが!」
あぁ……。
「義貞……ね……」
「何よ?」
「なっ、なんでも」
ないことは……ない。
義貞とは幼なじみだ。
同じ源氏の血筋として、交流は何度もあった。
そして会う度に……。
「あんた、まだ、あいつにいじめられたことを悔やんでるの?」
「そっ、そんなんじゃないよ!」
「ダメよ。あんたが嘘ついてるかなんて、顔見れば分かるもの。いじめは、あんたらの両親が介入してどうにかなったじゃない」
「そうだけどさ……」
だとしても僕は義貞が苦手だ。
人には相性ってものがあると思う。
人は、かけている部分をパズルのように、他人で補うけど、パズルのように、当てはめることができないところも出てくるのだ。
「で、直義たちがどうかしたの? また、喧嘩?」
「そうなのよ!」
「いつものことだから、気にしないほうがいいんじゃ……」
「違うの! 今回は、ヴァサラを使ってるのよ!」
「えっ?」
そういえば、さっきからバチバチと音がなっている。
「それならより一層僕が行く意味ないと思う」
「なんで?」
「義貞が僕の言うこと聞くわけないし、直義はキレたら誰の声も耳に入らない。それに、僕はヴァサラの成績が……最下位じゃないか」
そう、僕は、ヴァサラ遺伝子を多く受け継ぐはずの源氏の子孫であるにも関わらず、ヴァサラは実技が0点なのだ。
正確に言うと、僕が試験用を稼働させようとしたら、それが故障したので、測定ができなかったのだ。
これは鶴岡高校初の事例で、噂はすぐに校内に広まり、散々、陰口を叩かれ、白い目で見られた。
もちろん、僕に同情し、励ます人も大勢いたが、僕は、その言動がすべて冷たいナイフとして、胸に刺さった。
今、なんとか受け止めているけど、はっきり言って、きつい……。
そんな実力の僕が、この事態をどう収拾つければいいんだ?
「大丈夫」
加賀は、僕の両肩を掴んで、言った。
「あたしに策がある」