六波羅探題④
「なんで佐々木さんがここに?」
僕はハンバーグへの手を止め。佐々木に話しかける。
あのあと、僕らと同じ丸いテーブルで食事することとなった、佐々木さんも、アーク型の椅子の端っこで人の顔ほどの大きいパフェを食べている。
僕と佐々木さんは顔見知りである。
というのも、佐々木も立派な源氏。僕や義貞とは、親戚にあたるのだ。
僕の家は、親戚同士の交流が度々あるので、佐々木さんともよく合っていた。
「いやぁ、ちょいと仕事でしてね。高氏くんたちに、まさか会えるなど予想だにしてませんでした」
同じ高氏に、高氏と呼ばれるのは、違和感がある。あまりない名前であるから余計である。
佐々木さんは、僕とは歳が十つほど離れているが、誰に対しても敬語を使う。
いつも、礼儀正しいだけに、怒るとさぞかし恐ろしいだろうと思う。
「仕事って言うのは、見送り……ですか?」
直義が聞く。ファミリーレストランに、似合わない、険しい表情をしている。
「お、よく知っていますね。そうなんです。今、大仏様のお見送りをしてきたところなんです」
「大仏って、あの大仏維貞さんですか〜!!」
登子ちゃんが、その名前を聞いて驚く。
六波羅探題には、北方、南方の二つがあり、維貞さんは、南方のトップなのだ。
「そんな南方のトップが、どこに行ったんですか〜?」
「鎌倉ですよ。幕府に呼ばれたそうですよ」
仕事で、六波羅探題の人が鎌倉に来ることはよくあることだ。
しかし、気になる。なんで、このときに……。
自分で言うのも、なんだが、僕の足利家、義貞の新田家は、この国で、トップクラスの家柄。しかも、義貞は、次期当主だ。
維貞さんが、鎌倉に行ったということは、京の守りが薄くなったということ。
その危険な時期に、何故、幕府は、僕らを京に送ったのか…………。
「どうしたの、高氏くん? ハンバーグ冷めちゃうよ?」
局さんが心配してきた。熟考していたので、全くハンバーグが減っていなかった。
周りを見ると、直義と義貞は、すでに食べ終えていた。
女性陣も、あと少しで、完食しそうだ。
「あっ、すみません」
僕は、急いで、ハンバーグを胃にほおりこむ。頬が膨れて、まるでハムスターみたいになった。
「そんな焦らなくてもいいですよ、少し直義くんと義貞くんとで用事があるので、それまでここで待っていてもらいたいので」
「用事っていうのは?」
「事情聴取ですよ。犯人は署に送られましたが、お二人も近くの交番でいいので事情聴取をしてもらいたいのです」
僕の質問に、佐々木さんはそう答えた。
「いいぜ」
「大丈夫です。じゃあ、兄貴。俺は、義貞と行ってくるから」
佐々木は、あんなにあったパフェをたいらげて、席を立つ。
登子ちゃんも、二人を通すために一旦、席を立つ。
二人は、登子ちゃんに「ありがとう」と言い、佐々木さんについて行く。
そのとき、加賀がボソッと小さくつぶやいた。
「事情聴取って、その場でやれたじゃない」
「なんだって?」
「なんでもない」
なんて言ったが聞こえなかったが、それ以上、僕は言及しなかった。




