六波羅探題③
「以上で、よろしいでしょうか?」
店員さんが、エプロンの胸元にある長方形のディスプレイに映された注文リストを見せてくる。
"ハンバーグ×3
ミートソース×3
エビドリア×1"
それを確認してから、「大丈夫です」と、僕は答えた。
最近から、服に極薄のディスプレイが付くようになった。関東の田舎町には、まだないが、京では、それがファッションとして、当たり前になっている。
だいたいの人は、そこに、好きなイラストや写真を映して、自分を表現しているのだ。
しかし、僕は、今着ているような無地の服が好きだから、買おうとは思っていない。まあ、この青い布に映すとしたら、クラゲだろうな。
「それにしても、ここの警備固くないですか?」
登子ちゃんの言う通り、この街には、妙に警察の姿が見える。
今いるビルの二階にあるレストランから、外を見てみると、人混みに紛れて、彼らの青い帽子がちらほらあった。
パトカーも、何台か見かけたな。
やはり、皇族がいるから、なのだろうか?
人が多いということは、犯罪も多いということだ。それの抑止力となる人は、多いほうがいいという考え方なのかもしれない。
「都会は、治安が悪いから、だと思うよ」
局さんが、答えた。局さんと同じ答えを出したというだけで、僕は人として一段上の存在になったような気がする。
それにしても、注文の品が遅いな……。ここは、調理が、コックロボットが作っているから、早いはずだけど……。
「おいッ! どういうことだッッ!!」
男の荒い声がする。
「こんな不味いので、この値段なんてのは、ぼったくりじゃねぇのかぁ?」
「すみません……」
「おい、その分、金返せよッ!」
「それは……」
ガタンッ! 僕らが使っている、丸いテーブルから音がした。
すると、直義と義貞が、立ち上がっていた。
「二人とも、落ち着いて!」
「あんなところ、見逃せられっかよ……!」
「珍しく、義貞に同意。男として、ここは行くしかないと思います。加賀さん」
加賀の忠告も届かず、二人は、中年のチンピラに向かって行こうとする。
二人は真ん中に座っていたが、登子ちゃんは、二人の殺気に負け、席を立ち、道を作った。
「おい、じいさん……何してんだぁ?」
「なっ、なんだ……テメェらッ……!」
「なんだじゃないじゃないですか? 分かってるんでしょ?」
直義の爽やかな笑顔が、今は凶器でしかなかった。
チンピラの身長は、170cmといったところだから、それより長身の二人に囲まれて、どちらが加害者なのか分からなくなってきた。
二人の狂気に脅えて、逃げてくれると思ったが、チンピラは引こうとしない。
「なんだぁ? 分かってんのかぁ? 俺には、ちゃんとした、サービスを受ける権利があるんだよぅ? それを使ってる俺のどこが悪いんだぁ?」
「うるせぇ、テメェみたいなクズに、人権すらねぇよ」
明らかに、義貞も行動がチンピラだよ……。
「待ってよ、義貞。そんなこと言ったら、可哀想じゃないか……。ちゃんと言ってあげなよ……『ゴキブリ』って」
お前は、精神的に攻撃してんじゃねーよ、直義……。
「テメェ!」
直義に向かって、チンピラが暴力を振るおうとする。
そのとき…………。
「待ってくださいよ……」
長身の男が、チンピラの腕を掴む。
しかし、彼は、直義でも義貞でもない……。
「誰だッ! テメェッッ!!」
チンピラの質問を聞いて、懐から手帳を出す。
チンピラは、その中身を見て、目を大きく開いた。
そこには、「六波羅探題所属 佐々木高氏」と書いてあった。
「警察でーす。オッサン、あんたを現行犯逮捕しまーす」




