少女と謎⑥
さて、どうしたものか。
さっき、局さんは、加賀にこのことを相談しに行った。
そして、少女を僕に預けて、二人はヒューマノイドに説得しに行った。
僕は、この少女と一緒に、部屋のベッドに腰を下ろしている。
左隣の彼女は、さっきから、離すことなくクマの人形を抱いている。
顔をクマの頭に埋めている姿は、心を落ち着かせているためなのだと思う。
それは、間違って乗った列車で、見ず知らずの年上の男と同じ部屋にいるのだ。不安になるのは当然だろう。
とりあえず、ここは、話しかけたほうがいいだろう。
「お名前、聞いていいかな?」
「……セイナ」
「セイナちゃんか。可愛い名前だね。
僕は、高氏。よろしくね」
彼女は、こくんと頷く。
クマのぬいぐるみを抱いていた腕が少し緩んだ。
「そのクマさんは、お気に入りなの?」
「……お母さんから貰ったから」
「そうなんだ」
お母さん……か……。
この娘ぐらいの年頃だと、普通は、お母さんが好きだもんな。
母親といえば、子どもに欠かせない存在だ。
子どもがあるのは、母親のおかげ……そんなことは分かっている。
「……どうしたの?」
少女が僕の顔色を伺う。やはり、顔に出てしまったのか。
「いや……僕は……お母さんと仲良くないんだ……」
「……どうして?」
「それは……」
僕は、教育係に育てられたため、母親の愛情というものを感じたことはない。
僕の母親は、僕の父親の子を産むために、側室となった。
いわゆる政略的な関係である。しかも、結婚ではない。
言い方を悪く言えば、愛人となる。
そんな母親の顔を僕は全く思い出せない。
もしかしたら、思い出す意味のないものなのかもしれない。
そう思ってしまう自分は、息子として最悪だということは分かっている。
でも、それは世間一般の考え方であり、僕は僕だ。
反感を買うのが嫌だから、言っていないが、僕は母親が僕を産んだことを全くもって感謝していない。
これっぽっちもだ。
「ちょっと、性格の問題でね。
よく喧嘩しちゃうんだよ」
「……そうなんだ」
僕は苦笑の表情を浮かべて嘘をついた。
なんて中途半端な嘘をついたのだろうか。
でも、そんな嘘しか言えないほど、僕は動揺していたのかもしれない。
「……お兄ちゃんって……」
彼女から、声が発せられる。
「お兄ちゃんって、クマさんみたい」
クマさん……どういう意味だろう?
考えても分からない。
その言葉の意味は、長い間、謎になりそうだ。
すると、扉が開かれた。
「高氏ー」
「おっ、どうだった? 加賀」
「大丈夫だって、どうにか説得してきた」
加賀は笑顔でピースサインをする。
僕は、よくやったと、親指を立てる。
それから数時間、僕と局さんは、この部屋でセイナちゃんと時を過ごした。




