少女と謎⑤
「どうしたの?」
「…………」
少女はぬいぐるみを強く抱きしめる反応をした。
それは恥ずかしいことを示していると僕は解釈した。
早くお母さんのところに……そう思ったとき……。
「出発シマース!」
ヒューマノイドのアナウンスが、列車の中すべてに響き出した。
「あ……」
僕の鼓動が早くなり、息苦しく感じる。
大変だ、どうしよう?
少女のほうを見ると、格別慌てている様子もない。
年長の僕のほうが慌てている場合ではない。
冷静に、冷静に……。
とりあえず、なんでここにいるのか聞いてみよう。
「どうしてここにいるの?」
「……ここは、京行きの電車じゃないの?」
ソプラノの可愛い声が僕に質問する。
大きな目といい、筋の通った鼻といい、本当に、人形みたいな娘だな……。
「まあ、そうなんだけど……これはお兄ちゃんたちしか乗っちゃいけない列車なんだよ」
「なんで……?」
なんで……ときたか……。
たしかにこの言い方だと、僕がこの娘を仲間ハズレにしているように聞こえてしまう……。
でも、この言い方だと、この娘は、京行きの列車に乗りたかった。
そして、勘違いで、このホームに来てしまった。
あと、聞きたいことは……。
「お母さんは?」
彼女は首を横に振る。
「一人で、京に行くの」
彼女は、僕の目の前に、人差し指を立てた右手を差し出す。
さて、どうしよう? 彼女に悪気がなかったとはいえ、彼女は間違えたことが一つある。
その間違えを僕は見逃したいが、果たして、ヒューマノイドは、許してくれるのか……。
もう一度彼女のほうを見ると、上目遣いという姑息な手段を使っていた。
うーん……まあ……仕方ないか。
「お兄ちゃんたちと一緒に、京に行こうか!」
「うん!」
彼女はパッと明るい笑顔を見せて、頷いた。
すると、その声に反応して、局さんが部屋から出てきた。
「どうしたの?」
「いや、この娘、間違ってこの列車に乗っちゃったらしくて……でも、京に行くのは同じだから、一緒に行こうって提案したんですよ。
まあ、ヒューマノイドには、どうにか許してもらおうと思ってて」
「そうなんだ。
よろしくね!」
局さんは、少女に向かって言った。
「それより……」
と局さん。
「高氏くんは、トイレ行かなくて大丈夫なの?」
「あ…………」
そうだ……僕には、もっと先に解決しておくべき問題があったんだった……。




