青春の始まり④
小鳥のさえずり。時計の針の音。風がカーテンをなびかせる音。
どれも僕が好きな音である。なぜか分からないが、これらの音を聞くと、心が落ち着くのだ。
なのに、今、全く落ち着いていない。
というか、心臓の音が大きすぎて、それらの音が聞こえない。
あの後、僕は、彼女、局先輩と次のような会話を交わした。
▷▷▷▷
「どっ、どうも、足利ですッッッ! って、なんで僕の名前を?」
「それは、その、だっ、だって、足利家って幕府のナンバー2でしょ? 皆知ってるよ」
「そっ、そっ、そっ、そうですよね……。その、あの、あのときは盗み聞きしちゃってすみません!」
「だっ、大丈夫だよ! 私もあのとき聞かれちゃって頭真っ白になっちゃったけど、でも、それでも、あの言葉が嬉しくてね……」
「そ、それなら良かったです! 本当に!」
「そっ、そういえば、自己紹介まだだったね! 三年の越前局です! よろしくお願いします!」
「こちらこそっ! よろしくお願いします!」
▷▷▷▷
と、まあ、共に発言がぎこちない会話をし、今、僕は彼女と同じソファに座っている。
彼女とはサッカーボールくらいの距離を置いているが、それでも緊張する。
緊張を軽くするために、もっと距離を置きたいが、それで僕が彼女を嫌ってるって勘違いされたらどうしよう?
逆に近づいて、距離を空けられたら、めっちゃ傷つくし……ああッッッ、もどかしい!
僕は彼女の顔を見る。
さっきからうつむいたまま、石のように固まっている。
話しかけたほうがいいのかな? 僕は男だしな。リードしなきゃ。
でも、いきなり声かけたら、嫌われるかな?
いや、それは考えすぎだ! さっきも普通に話したじゃないか!
そう、普通に、普通に……って、普通の会話ってなんだ!?
やばい! 頭の中が混乱してきた!
とりあえず、さりげなく話しかけよう。
そ、そう、さりげなく。
「あっ、あの……」
そうだ、そのままさりげなく!
「今日って、絶好のポエム日和ですよね!」
…………………。
ポエム日和って、なんだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!
なんで、さりげない会話で、ポエムが出てくるんだよ! いや、たしかにネットで、恥ずかしいポエム出したことあるけれども! 唯一の趣味「だった」ものだけれども!
僕はちらっと彼女の顔を伺う。
「えっ、あっ、そっ、そうですね、はい」
やめてください! 絶対意味わかってないのに、無理に僕に合わせないでください! 悲しくなるんで!
「……」
「……」
「…………」
「…………」
また、沈黙が始まった……。これからの沈黙はマズイって。ポエム日和からの沈黙は……。
どうしよう? どうやって巻き返そう?
女子が好きな話題。
スイーツ! ダメだ。ポテチぐらいしか知らない……。
ファッション! ダメだ。最近の流行なんて全く分らない……。
ゲーム! ダメだ。加賀じゃないんだから……。
そうやって、悩んでいると……。
「あっ、あのぉ……」
と、彼女。
彼女から話しだすのは、男として情けないような、助かったような……。
でも、何話すんだろう?
僕は、彼女の目をしっかりと見て、体を彼女のほうに向け、体全体で彼女の話を聞こうとする。
「あの……。ポエム書くんですか?」
「……」
先輩……そこ掘っちゃダメ……。