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少女と謎②

八月が始まった。


この頃、あまりの猛暑で、セミも鳴くのを諦め、陽炎が興奮していた。


家から出て、道路を見ると、家のない人たちが水道から汲んだ水をバケツに入れ、水撒きをしていた。


まだ、午前六時だが、これくらいの時間から撒かないと、手遅れになってしまう。


僕も、足利家の家臣と一緒にそれを手伝う。


「若様すみません、手伝ってもらって……」


そう言うのは、平民のケイおばあちゃん。


近所の長屋に住んでいて、おじいさんと一緒にこの時間、腰を曲げながらも、水撒きをしている。


「いえいえ、皆で協力しないとこれは終わりませんから」


たしかに、僕の父親は、この地域のトップだが、それが、平民や悪党などの位の低い人たちと行動を共にしてはいけない理由にはならない。


父親が高い位なために、いろいろな人から敬ってもらえるが、僕はその姿勢を見ると逆に距離を感じてしまうのだ。


高氏(たかうじ)さん、そろそろ皆を起こしたほうが良いのでは?」


「そうですね、一親さん。気遣いありがとうございます」


「何を言っているんですか、ご恩に奉公で返すのが武士ですから」


彼は、安田一親(やすだ かずちか)さん。


先月の事件をきっかけに、僕の足利家に仕えることになった。


「ある意味」では、局さんの双子の弟にあたる。だから、局さんと左右逆にある涙ボクロと、ショートヘアがなければ完全に局さんと間違えてしまうだろう。


僕は持っていた柄杓(ひしゃく)とバケツを彼に渡してから、家に戻った。


▷▷▷▷


「おーい、直義(ただよし)起きろー」


弟の部屋をノックしながら、呼びかける。


だが、返事はもちろんない。


ため息をついてから、僕はドアを開ける。


直義の部屋は、黒と灰色が多めの典型的な男子の模様になっている。


中では、直義が、灰色のカバーをかけた抱き枕を抱いて寝ていた。


こいつは、身長が189cmあるので、ベッドが大きめに作られてある。


ちなみに僕は169cmしかないので、このベッドはあまりにも大きすぎる……。


体は大きいくせに、こういうところが幼稚であるのが直義の特徴だ。


普段、クールぶっているのも、かっこつけたい年頃なのだろう。


と言っても、僕は、こいつと一つしか歳が違うのだが……。


まあ、ここのところで閑話休題。


さて、起こすか。


僕は直義の体を両手で大きく揺さぶる。


「起きろー、朝だぞー、起きる時間帯だぞー、起きろー」


「……分かった、分かった……」


小さくそう言った直義は、ゆっくりと体を起こす。


目が完全に閉じていて、必死にその目を開けようとしている。


「下に朝食あるから、食べろよ」


「……分かった……」


僕は弟の部屋を後にする。


「おはようございます」


弟の部屋を閉じたら、隣から声が聞こえたので、振り向く。


そこには、ピンクがベースで、白い小さな水玉がある、可愛らしいパジャマを着た局さんが立っていた。


局さん自身の部屋のドアノブを握っている様子から、今、起きてきたとこうだと思う。


「おはようございます。朝早いですね」


「それは、高氏くんもでしょ?」


「それもそうですね」


二人で「ハハハ」と笑いあった。


僕と局さんは、話しながら、二階から一階へ、階段を降りる。


「昨日は、今日のための準備が忙しくてね」


「あー、女の子って準備多そうですからね」


「そうなの。いらないものなのかどうか、まったく分からなくなって、大変だったんだよ」


「もったいないとか思っちゃいますからね」


「そうそう」


そんなこんなで、リビングに着いた。

僕は、キッチンに行って、ご飯と焼き鮭と味噌汁を二人分よそい、リビングのテーブルに出す。


「どうぞ」


「美味しそー! 高氏くん、料理上手いんだね!」


「いや、まあ、兄弟で僕しか作れないんで、ずっと高義(たかよし)兄さんと直義の分を作ってたんですよ」


「そうなんだ! 優しいね!」


優しい……局さんのほうが優しいよ。


まあ、そんなこと本人の前で言えるはずもなく……。



ドタバタドタ!!!


廊下のほうから大きな音がした。



慌てて、廊下に出ると……。



「あ……」



直義が階段に頭を一階、足を二階に向けて横たわっていた。



直義はクールでかっこよく、いろいろなことを難なくこなすが……寝ぼけているときは、本当に何もできないのだ……。



▷▷▷▷


「準備できました?」


「うん! できたよ!」


「俺もできたよ、兄貴」


「じゃあ、出発しましょうか! まずは、待ち合わせ場所の鎌倉駅へ……いざ、鎌倉へ!!」


「「いざ、鎌倉へ!!!」」


三人で、拳を高く上げる。


こういう日ぐらいテンション高くてもいいだろう。


僕は、家から外への扉を開ける。


そこでは、雲一つない日差しが、僕らを待ってくれていた。











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