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少女と謎

さてと……。


ボクは、寝そべった体を起こす。

アスファルトのベッドは痛くて寝心地が悪かった。

車が撒いてったガソリンのせいで、それはさらに荒れていた。


こんな夜遅くに道路を走る車など、こんな田舎にいるわけはない。


いつもはできないことができると思うと、ボクはいつも以上に、異常に興奮してしまうのだ。


ボクは、砂漠のような色のハンチングを深く被り歩き出す。

茶色のブレザーのホコリを(はた)いてから、紺色のパンツのポケットから爪切りほどの大きさの携帯端末を取り出す。


イヤホンのようにそれを片耳にはめる。


「もしもし、父さん? 頼まれていた調査が終わったよ」


「よくやった。なら、帰ってきて良いぞ」


「分かった。あーでも寄り道して帰るよ」


「寄り道? どこへだ?」


「京の都に」


この端末が高性であるがゆえに、父さんが息を飲む音が聞こえてくる。


「無事に帰って来れるのか……?」


「分からない。下手したボクの骨だけが里帰りするかもね」


「いいか、短気は損気……焦っても良いことはないぞ」


「焦ってないよ、ボクたちは待った……十分すぎるほどね……」


頼朝公が亡くなってから約百年……。


それは、ボクら、国民が平家に乗っ取られた幕府に悪政を虐げられた年月でもある。


残念ながら、一生をその悪政の中で尽くしてしまった人も大勢いる。


彼らのような人をボクは増やしたくない。

こんな小さなチカラでも、ボクは、皆のために尽くしたいのだ。


「分かった。何を言っても無駄であろう……。これだけは言おう……」


父さんは軽く息を吸ってから放った言葉。


それは……。



「生きて帰って来なさい……正成(まさしげ)……」


ボクは微笑みながら、「もちろんだよ」と返し、端末の通信を切った。


ボクは夜空を見上げる。


まるでこの国のように、月は欠けていた。


ボクは、それに向かって拳を突き上げる。


さて、そろそろ終わらせよう、この現実を。


そして、そろそろ叶えよう、あの理想を。



ボク、楠木正成(くすのき まさしげ)は、決意を心の中で固める。



その三日月に突き上げた左の拳は、強く強く握られていた。







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