高義⑧
さて、本題に入ろう。
彼らをパーティーに呼んだのは、ある理由がある。
遡ること五日前、仕事で兄さんは、京に行った。いわゆる出張というやつだ。
約二週間ほど、京に滞在するらしい。
そのときに、「はい、これ」と、六枚のチケットを渡された。
兄さんが言うには、このチケットは、元執権である、北条高時が、この間の事件のお詫びとして僕たちに渡したものらしい。
そのチケットは、八月一日から一週間ほど、京で宿泊できるものだった。
しかも、あの六波羅探題の運営するホテルで宿泊できるのである。
京といえば、この国一番、世界でも五本の指に入る大都市である。
京には、昔から、皇族、貴族らが住み、引き詰めあった高層ビル群のせいで、夜になっても暗くなることはない。
そこに行きたくても、関東に住む人たちは、幕府のトップレベルの権力を誇る者しか頻繁に行くことはできない。その障害となっているのは、もちろん金銭的な問題である。
その京の都に、六波羅探題が経営する豪華で安全なホテルに、無料で宿泊できるチケットを手に入れることができたのだ。
しかし、あることが起きた。
それは、そのチケットを受け取る権利がある、安田一親が、受け取りを拒否したのだ。
何故かというと、一親さんは、そもそも、兄さんの出張に護衛として着いて行くので、チケットが必要ないのである。
それは、僕を困らせた。滅多にもらえない、いや、一生もらえる機会があるほうがおかしいチケットが余ってしまったのである。
流石に、捨てるわけにも、返すわけにもいかない。
それを加賀に相談したら、彼女はこう言った。
「登子ちゃん呼んだら?」
その言葉は、さらに僕を困らせた。
登子ちゃんは、前回の事件の首謀者の妹で、その事件に少しだが加担していた。
そして、その罪に問われ、数週間だが、謹慎処分をくらっていたのだ。
そんな彼女を何故、呼ぼうとしているのか僕にはまったく理解できなかった。
しかし、加賀は言った。
「別に、登子ちゃんが悪いわけじゃないし、あの子もあの子なりに考えての行動だと思うから、許してあげな」
残念ながら、僕は加賀に頭を上げることはできない。
嫌々ながらも、僕はその意見を受け入れた。
まあ、僕も、彼女がずっと家に閉じ込められていることを心配していた。
苦手だが、彼女には元気になってもらいたい。
彼女を元気にするため、このチケットを皆に配るため、僕は、恋人の越前局、弟の直義、親戚の新田義貞、幼なじみの加賀、そして赤橋登子の六人でパーティーを開いたのである。
さて、そろそろ渡さなければいけない。
京へのチケットを……。
それが悪魔のチケットであったことを僕は後々知ることになる。
でも、このときの僕は、そのチケットに感激する皆の笑顔を、ただただ微笑みながら眺めていた。




