高義⑦
「それでは、気を取り直して、カンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!!!!!」」」」」
さて、あの後、どうにか登子ちゃんに事情を説明し、もう一度僕の家に来てもらった。
義貞のことが大嫌いな直義も、流石に悪気を感じて、義貞に頭を下げ、加賀も謝罪をし、どうにか慰める形となった。
その後は、義貞と登子ちゃんが互いに土下座し、謝罪をすることでどうにか場は静まった。
楽しいパーティーが台無しになるのは、誰も望んでいない。
気を取り直して行こう。
僕たちは、天井に突き上げたコップの中身を一気に飲み干す。
その後は、デリバリーで頼んだピザやら、お寿司やら、チキンやらを食べながら、会話をする。
「どうも〜、高氏先輩、久しぶりです〜」
いつもながらの僕の苦手な挨拶をしてきたのを見て、なんとか元気を取り戻したのを確認する。
僕は正直、彼女が苦手である。
でも、彼女を呼んだのにはある理由があるのだ。
まあ、苦手とはいえ、嫌いであるわけではないので、僕は皆に対してと同じように対応しようとする。
「久しぶりだね。あの後どうしてたの?」
「何って、ずっと謹慎してましたよ〜! 退学処分にならなかっただけ、マシですね!」
「それは……良かったね」
「はい!」
でも、やっぱり、どうしても彼女と話すとぎこちなくなってしまう。
嘘がつけないのは、僕の一番の弱点である。
他の人に助けを呼びたいが、加賀と局さんは、デザートを作りに台所に行き、義貞と直義は、いつも通り、口喧嘩を始めている……。
でも、それが通常の、いつもの、楽しい日常なのだから、僕は満足だ。
「そういえば、どうして、高氏先輩は、局先輩じゃなくて局さんと呼び方を変えたんですか〜?」
「ん? それは、恋人になったわけだし、先輩はどうかと……。それにもう、先輩じゃないわけだし」
「呼び捨てにしたほうが良いんじゃないですか〜?」
登子ちゃんは背伸びをして、僕の顔にそのニタニタ顔を近づけてくる……。
確信をついてきたので、僕は動揺する。
「それは……」
「ケーキできましたよ〜!」
局さんの凛々しい声が聞こえる。台所から、局さんが、様々な種類のケーキを持ってきた。
「「おぉ〜!」」
それを見て、喧嘩していた二人も争いをやめて、ケーキに目をやる。
僕は、そのケーキに足利平和賞を上げたくなった。
「わ〜い!」
登子ちゃんも、純粋な笑顔を見せて、ケーキのほうに向かう。
「ほらほら、慌てないで」
加賀が、そう言いながら、フォーク、モンブラン用のスプーン、お皿を持ってきた。
僕も皿をとり、ショートケーキをとり、試食してみる。
おいしい……素直にそう思った。
皆も幸せそうな顔で、ケーキを食べている。
たぶんこの空間が世界で一番幸せな空間ではないかと僕は思った。
「喜んでもらってよかったよ」
僕のとなりで局さんが呟く。
「そりゃあ、局さんの作ったケーキですもん。当たり前じゃないですか」
「そんなことないよ。でも、もしそうだったら、嬉しいな」
彼女の微笑むが自然と僕にもうつる。
「でも……」
局さんは小さく逆接する。
「高義さんにも食べてもらいたかったな……」
たしかに、この空間に足りないものが一つある。
僕の兄、高義は、今、京都に行ってしまったのだ。




