高義⑥
「どうしたんですか? 一体……」
リビングに入った途端、局さんの顔が固まった。
そうだよな……。
いきなり、彼氏が、メイド姿のマッチョと、ドレス姿の長身に連行されて、いわゆるロリータファッションに染まっていたら、そういう反応するよな……。
下を向くと、自分の服のピンクが目に入り、クラクラしてしまう……。
「あ、局さん、久しぶり!」
加賀が和室から、男装して、登場した。
「おい、なんで、俺らはこんな格好させられたんだ?」
義貞がこの大きな疑問に問いかける。
義貞は、メイド姿のまま、ずっと腕を組んでいる。
筋肉のせいでピチピチに服を着ているのも伴って、ものすごい迫力である。
「だって、ただのパーティーじゃつまらないじゃないですか? 男装女装……パーティーの鉄板ですよ?」
「知るかッ! そんなもんッッ!!」
義貞の叫びに驚き、加賀は、身を恐縮させる。
「クソッ! こんな服着せやがって」
ここで疑問がもう一つ出現する。
「そういえば、義貞はどうやってそのメイド服を着せられたの? 加賀みたいな女子が義貞を拘束するのは難しいだろうに……」
「ああ、そうだな。教えてやろう」
義貞は僕の質問に詳しく答えてくれた。
▷▷▷▷
今から、三十分ぐらい前のことだ。
俺はこの足利邸に到着した。
中に入ると、加賀がパーティーの準備をしていたから、そのの手伝いをした。
そのとき、加賀が、「お疲れ様です。ジュースどうですか?」と聞いてきた。
気が利くやつだな、と思い、素直にそのジュースを俺は受け取り、飲んだ。
すると、目の前が歯車のように回りだし、そのまま俺は意識を失った。
▷▷▷▷
「そして、目が覚めると、俺がこんな姿になっていたんだ……」
それは気の毒に……。
というか、それ、一種の犯罪じゃないのか?
「てか、それって、加賀さんは、義貞の半裸を見たことになりますよね?」
直義が加賀に率直な疑問をぶつける。
たしかに、女子が男の裸を脱がすことはハレンチなように感じるだろう。
しかし、その女子が加賀なら別だ。
あいつは、男勝りな性格と、まさにスポーツ少女という見た目をしている。
実際に、今の加賀の男装は、ショートヘアとその日焼け肌も相成って、とても似合っている。
「そういうことだね。いや〜、まさか、義貞先輩がそんなパンツが好みとは……」
「やめろッ! 言うなッッ!!」
義貞の動揺を見て、「どのようなパンツを履いていたんだ?」と、皆の脳裏に浮かんだ。
「大丈夫ですよ、言いませんから……ね?」
いや、そのニヤニヤ顔からして、嘘だろ……。
こうして義貞は加賀に弱味を握られたわけだ。
義貞を見ると、ものすごい速さで歯ぎしりをしている。
相当、悔しいのだろう。
「あれ? 加賀ちゃん? 義貞さんのにスパッツか何か履かせた?」
「いいや、履かせてないよ」
局さんの質問を加賀が返した途端、直義の目が光った。
義貞はそれに気づくのが遅かった。
もうそのときには、直義は義貞の背後に回っていたのだから……。
「えい」
義貞のスカートが天に向かって舞い上がる。
「すみません! 遅れました!! 赤橋登子、ただ今到着し……」
ちょうどいいタイミング、いや、義貞にとっては悪いタイミングで、背の低い少女がリビングの扉を開け、義貞のスカートの中身を目に焼いてしまった……。
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
扉が強く閉められ、続けて、玄関の開け閉めの音が聞こえた……。
窓を見ると、登子ちゃんが逃げ去っていくのが見えた。
スカートが元の位置に戻るとともに、義貞は、ゆっくりと、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
それから数分間、僕たちは何の声もかけることができず、ただただ立ち尽くしていた……。




