高義⑤
「ただいまー」
自宅に帰ってきた僕は、いつものように扉を開ける。
しかし、そこには、いつものような光景はなかった。
いや、正確に言うと、いつもの光景に装飾品が施されていた。
よく子どものときに作った、折り紙でできた鎖である。
嫌味に聞こえるだろうが、僕は幕府の豪華絢爛なパーティーに小さい頃から参加している。
そこには、高級な絹でできたカーペットや金色の壁、最新鋭のメイド型ロボット(元々軍事用に作られたもので、言動や見た目すべてが本物の人間そのもの)があった。
それに比べれば、折り紙で作った装飾品なんかは、圧倒的に劣るだろうが、僕はこっちのほうが好きなのだ。
金が反射する光なんか、目が痛くなるだけだ。
さて、僕は、後ろの二人が靴を脱いでいる合間に、リビングに繋がる扉の前に立った。
この後の展開はだいたい予想がつく。
きっと、中にいる人が驚かそうと、この扉の向こうに、クラッカーを持って待機しているに違いない。
さて、どうしよう。
分かっていることをやられて、無反応でいるわけにもいかない。
大人な僕は、たとえわざとらしくとも、驚くふりをしておこう。
そう、大人らしく。
「どうしたの? 兄貴」
「いや、なんでもない」
僕は、ドアノブに手をかける。
そして…………。
ぎぃぃぃぃ。
扉を開けると、僕の目の前に、太マッチョの男が、メイド姿で、腕を組みながら立ち構えていた。
「お帰りな……」
バタンッッ!!
「えっ? どうしたの!? 高氏くん?いきなり、扉を閉めて!?」
「いや、どうやら、帰る家を間違えたようです。今すぐ、この家から出ていきましょう」
「何言ってんだよ、兄貴」
直義は、僕が局さんの肩を押して玄関に向かわせている隙に、ドアノブに手をかけた。
「やっ、やめとけッ!」
ガチャ……。
「お帰りなさいませ。ご主人……」
頭を下げていた男が顔を上げ、直義を見た途端、二人の表情、動き、そして空気が固まった。
「何やってんだ……義貞……」
「フンッ!」
「グハッ!」
義貞は、直義の腹を殴った。
あまりの速さに、義貞の拳が光り、その軌道が光の筋となっているような幻覚が見えた。
直義は、その衝撃に耐えられず、そのまま床に倒れ込む。
「高氏、局さん。ちょっと、そこで待っててくれ」
義貞は、直義の足を持ち、引きずりながら、リビングに連れ込んだ。
そして、僕と局さんは、再び閉じた扉の前にただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
しばらくすると、扉が開かれた。
「……お帰りなさいませ……お兄様……」
今度は、直義が赤いドレス姿になって現れた。
下を向いているため、頭の上に飾られた、直義の顔のように赤いリボンが僕たちのほうを向く。
その後ろには、義貞がメイド姿のまま、仁王立ちで直義の退路を絶っていた。
僕は、笑顔で、二人の返事に答える。
「すみません。間違えました」
僕は扉を勢いよく閉め、玄関に向かって、走り出した。
すると、直義と義貞が僕を追いかけ、二人がかりで僕を捕まえる。
「離せッ! やめろッッ!!」
「大丈夫だぜ、痛くしてこないからよ」
「兄貴も似合うと思うよ」
「嫌だッ! 離してくれッッ!!」
僕は、そのままリビングに連れ込まれ、そのまま隣の和室まで運ばれた。
和室への扉が開かれると、そこには……。
「いらっしゃい!」
僕の中学からの女友達、加賀が待ち構えていた。
明らかに女の子向けの洋服を手にして……。
和室の扉が閉められる。
そこから数分間、その和室からは、断末魔の叫びが聞こえたという……。
「嫌ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」




