高義④
「んッ? なんだッッ!?」
引き金を引いた男が驚いたのも仕方ない。
なぜなら、引き金を引いたはずなのに、光弾が発射されないからだ。
何故、発射されなかったのか……。
理由は、単純明快だ。
僕がハッキングしたからだ。
彼の銃を乗っ取り、僕の足元にシールドを展開する。
彼だけではない。その場にいる全員のヴァサラの主導権は僕にある。
それぞれのものから、発動させたシールドは、歩道橋の上から地面に向かって、階段を作り、僕はそれを降りていく。
下を見ると、皆、自分のヴァサラが思い通りに起動しないことに慌てて、僕が降りてることに気づいていない。
その隙に、僕は、光の階段を降りて、悪党のトラックの荷台にたどり着く。
その音で、やっと皆は、僕の存在に気づいた。
「なんだ、てめえ!?」
「おい、あの学ランは、鶴岡高校のやつだぞ!?」
「クソッ!」
悪党の一人が、懐から、ヴァサラではない普通の拳銃を取り出し、僕に向かって射撃する。
だが、そんなものは、僕には通用しない。
銃弾は、発動させた光の壁にぶつかって地面に落ちた。
さてと……そろそろ、捕まえるか。
僕は、神経を集中させる。
そうすると、悪党一人ひとりの目の前に、真上に、後ろにシールドが発動された。
そして、そのまま悪党たちを光の箱に閉じ込める。
「おいッ! 開けろ! 開けてくれ!!」
「助けてくれッ!」
箱の中から、悪党たちの悲鳴が聞こえる。
その声がだんだん、だんだんと小さくなっていき、最後には聞こえなくなった。
シールドを解除すると、悪党たちは、気絶して、地面に倒れ込んでいた。
▷▷▷▷
「ご協力ありがとうございます」
警官が敬礼をし、僕に感謝の意を述べてきた。
悪党たちは、手錠をかけられ、そのまま複数の犯人を収容できる輸送車に乗せられている。
「しかし、彼らは何故気絶したのでしょうか?」
「ただの酸素不足ですよ。さっきのシールドでできた箱の中の空気を薄めて、真空に近づけていったんです」
それが、僕が安全に彼らを捕まえる最も最善の方法だった。
なんせ、ここにあるヴァサラは銃だけ。
ムチなどがあれば、他の対処方法もあったが、僕は、生憎、ヴァサラを持ち合わせていない。
まあ、持ち合わせたくもないが……。
トントン。
肩を叩かれた僕が振り向くと、そこには、局さんがいた。
しかも、ムスッとした顔で……。
あ……しまった……。
今さらながら、自分の失態に気づく。
「すみません、勝手な行動してしまって……」
「怪我は?」
「え……あー、ないですけど……」
「良かった……」
彼女は、ホッとため息をついて、ムスッとした顔が朗らかな表情に変わる。
「びっくりしたよ、急に飛び込んだから……。心配するでしょ?」
「すみません」
「でも、無事で良かった……」
局さんは、僕と付き合ってから、態度がまるでお母さんのようになってきた。
それにしても過保護が過ぎるような……。
まあ、僕のことを考えてくれることはとても感謝している。
「というより、今日は、早く帰らないでいいの?」
彼女の質問が、沈黙を導く……。
あっ…………忘れてた…………。
「兄貴ー!」
上から声がするので、顔を上げると、は直義
「何やってんのー? 先に帰ったんじゃないのー?」
「ごめーん! 野暮用があったからさー! 今、そっち行くよ!
すみません、お巡りさん。僕、用事があるんで、行きます」
「あっ、そうですか。ご協力ありがとうございます!
ちなみに、用事というのは……」
「友達と家でパーティーをやるんですよ」
そう、あの事件以来、久々に皆が集まるのだ。




