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高義③

久々の局さんとの帰り道。


懐かしい感覚が僕の心を心地よくさせる。


でも、あの頃の(うぶ)な心臓の高鳴りはない。


というのも、僕と局さんは既に一つ屋根の下に住んでいるからだ。


といっても、二人だけではない。弟の直義も、兄の高義もいる。


でも、三人兄弟だけだった家に一輪の花が咲いたことは、大きな変化である。


最初は、あまり関わりのない女性という人種が私生活に介入したことに戸惑いを隠せず、言動がオドオドしていた。


最終的に、「私、何か悪いことしました?」と言わせてしまうほどに…………。


だが、それからは最低限の注意(代表的なのは、お風呂やトイレ)を払いながら、生活し、もう何の違和感もなく、生活を共にしている。


そんなわけで、局さんはただの恋人から、あっという間に、恋人以上家族未満にレベルアップしたのであった。


鎌倉の街は、人が多くて騒がしい。


学校から駅まで続く長い歩道橋の下には、車が渋滞を起こし、上には高速道路が、ビルの間を蛇のように上手く張り巡られている。


「結局、車が空を飛ぶことはなかったですね」


僕は高速道路を見上げながら局さんに問う。


「仕方ないよ。事故が起こった場合の被害とか考えた結果だもん」


僕は、車が空を飛ぶのを小さいときに夢見ていた。よくSF小説に書かれていたからだ。


しかし、その幻想は、僕が生まれる前に現実によって砕かれたことを知ったときは、僕の心のほうが木っ端微塵に砕かれた。


それと同時に鎌倉幕府の持つ科学技術のクォリティにも驚かされた。


鎌倉幕府は、今の僕らの私生活に出現している技術よりも、はるかにレベルの高い技術を持っているのにもかかわらず、それを非公開にしている。


それは、鎌倉幕府の権力を維持するためだろう。どの組織にも負けない技術(ちから)を持てば、誰も逆らおうなんて考えない。


しかし、その技術を公開すれば、夢のような世界が、すぐ近くに現れる。


僕は非公開に対して少し残念に思う。


だが、局さんは違かった。


「でも、やっぱり車は地面を走るものだよ」


「車が空を飛ぶって面白いと思いません?」


「面白いかもしれないけどさ。車は地面で走るものだよ。空のことは飛行機や飛行船や気球に任せておけばいいんだよ。他のものの仕事に邪魔しちゃいけないんじゃないかな」


たしかにわざわざ車が飛ばなくても、人間は空を飛ぶ(すべ)を持っている。車を飛ばさなくても、現実としては、大丈夫なのだ。


局さんの言葉を聞くと、やはり家族のような関係になったとはいえ、僕の考えと彼女の考えは違うのだ。


僕は僕、彼女は彼女。


たとえ、親子であっても、恋人であっても、愛し合っていても、所詮は、他人なのだ。



陽炎(かげろう)で、隠れていた鎌倉駅が見えてきた。


鎌倉駅は三段構造になっていて、地上では一階、歩道橋では、三階から入ることができる。


二階は、ショッピングモールになっていて、西日本や東北から、武士や貴族がお土産を買ってくる。


平民は、商業で儲けている者は、お土産を買うが、それ以外の平民は、ここに来るお金すらない。


大きな経済発展の代償である、経済格差は、今後も埋めることはできなさそうだ。


それに不満を持つ者は、多い……。



「おいッ! 止まれッ!!」


僕と局さんは、歩道橋から、下を見る。


そこには、輸送車が、銃の型のヴァサラを所持した人たちに囲まれていて、その輸送車からも同じように銃を持った男たちが現れた。


「その中身を見せろ!」


「断る!」


空気は氷点下のごとく固まり、あたりは騒然とし、人々は、その場から離れたり、安全な駅の中に入っていった。


どうやら、警察と最近話題の「悪党」がいがみ合っているようだ。


彼らこそ、さっき話していた「不満を持つ者」である。


彼らは、武士でありながら、幕府に逆らう者たちだ。だからといって、犯罪行為をしている者はほとんどいない。


しかし、幕府は、「武士は幕府に従うものだ」という固定観念に基づいて、彼らを「悪」とみなしている。


僕が見る限り、数は警察のほうが優勢で、悪党には勝ち目がなさそうに思える。


悪党は、幕府に従っていないため、僕らのようにちゃんとした教育を受けていない。


教育された警察と、教育を受けていない悪党……それは、例えれば、プロレスラーと小学生のようなものだ。


「クソッ!」


悪党の一人が、引き金に指をかけたように見えた。


高速で緊張が周りの皆に走る。


僕は争いが嫌いだ。

できれば、この事件にも、関与したくない。


そのまま帰って、いつもの日常を送りたい。


局さんとの楽しい時間を味わいたい。



でも……それよりも、今目の前にある現状を見逃したくない。


「高氏くんッ!?」


局さんの驚きの声を背に、僕は歩道橋から飛び降りた。





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