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高義②

タンッ、タッタッタン……。


液晶とプラスティックがぶつかり合う音が淡々と流れていく。


今、僕が使っている机の面は、全て液晶ディスプレイになっており、その画面には歴史の問題が映っていた。


僕はすっかり忘れていた。いや、あんな大事件があったのだから、忘れるのは仕方ない。

僕にはもう一つの山場があったのだ。


そう……期末テストである。


『試験終了しました』


電子的な女性の声がそう告げると、画面から問題内容が消えた。

これによって、完全に皆が同じ試験時間の範囲で、問題を解かなければいけなくなったのだ。


僕は溜め息をついて、真っ黒になったディスプレイに頬をつける。教室のクーラーによって冷やされているので、ひんやりしてとても気持ちが良い。


「兄ちゃんお疲れ」


僕は隣の席にいる猫背の男を、頬をディスプレイにつけながら、見る。


僕の弟、直義(ただよし)である。テストが終わるや否や、直義は、机の横についているフックに引っ掛けていた学校のバックから本を出し、読み始めた。


長身の直義が猫背で本を読む姿は、本当に絵になる。


それを見て、やはり、男は身長なのかと、自虐じみた仮説を立てる……。


この教室には、僕、足利高氏(あしかが たかうじ)と直義の二人しかいない。


というのも、期末テストは、剣舞大会の日程と被っていたのだ。そのため、それに参加していた僕、直義、義貞の三人は、遅れて期末テストを受けることになったのだ。(義貞は三年生だから、別の教室でテストを受けている)


勉強以上に苦しい出来事によって、僕たちは全く勉強することができなかった。


しかし、逃げることはできない。僕たちは前を向くしかなかった!


……いや、かっこよく言ったがただ単に一夜漬けをしただけである……。


仕方ないじゃん……時間ないんだから…………。


まあ、どうにかこの二日間を乗り越えることができた。あとは帰って寝るだけである。


「さてと、帰ろうか? 直義?」


「いや、今日はこれを読み終わったら、帰るよ……」


いつもに増してクールに言葉を返されたことに、僕は疑問に思った。


「どうした? そんなにその本にハマったのか?」


直義は、溜め息をついて、「鈍感だなぁ」と(つぶや)き、肩を落とした。


「兄ちゃん、そこから校門見えるでしょ? 窓の外見て」


直義は窓を指差す。僕は素直に指示に従い、窓の方に歩いた。


そして、窓から、校門の方に一人の影が見えた。


あ、なるほど。直義の言ってる意味が分かった。


「待たせちゃ悪いでしょ?」


こうやって、気が利くところが、直義がモテる要因なのか思った。


たしかにそうだ。待たせるわけにはいかない。


僕は急いで、帰り支度をし、廊下に出る。


だが、お礼を言うことを忘れていたので、またすぐに教室のスライド式の扉を開けて、「教えてくれてありがとう! また、家で!」と伝える。


直義は、本に目を向けたまま、「はいはい」、軽く右手を挙げる。


僕は、扉を静かに閉めてから、加速して校門に向かった。


『廊下を走らないでください』


廊下に設置されたセンサが、僕の走りを感知して、忠告してきたが、知ったことではない。


ルールを守ることより、大事なことが今あるんだから。


昇降口で、急いで、上履きと靴を入れ替え、靴を履き、外に出る。


大きな花壇には、スプリンクラーが水を巻いていて、校庭はとても涼しかった。


ハァ……ハァ……。


僕は息を切らしながら、見えてきた目標に急いで走る、走る、走る。


目標は、僕に気づくと、その顔を優しく微笑ませた。


「すみません! 遅れました!」


「気にしなくて大丈夫だよ。私が勝手に待ってただけだし。校門に来たところを驚かせようと思ったのに……バレちゃった」


水玉模様のワンピースを着て、可愛らしく、振る舞いながら、彼女は僕をなだめる。


そうやって、僕にドッキリを仕掛けようとするところも、また可愛らしく感じる。


長い髪、白い肌、凛とした瞳、薄いくちびる、涙ボクロ。



この可憐な女性こそ、僕の彼女、越前局(えちぜん つぼね)である。




















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