Blue Scream④
「なんであんたがここにッ!?」
「テレポーテーション装置だよ。開発できたばかりで未発表だ。まあ、他の誰にも教えるつもりないけどね」
目の前にいるラスボスの登場に、加賀は混乱した。
守時に気づかれることなく、この装置にいるはずの越前局を助けて、この場から去る。
それが加賀の作戦だった。
しかし、無惨にも、装置の中にいるのは別人で、目の前に守時がいるという最悪の状況になってしまった。
加賀は、たしかに情報収集や戦略が得意で策士として優秀だが、とは言っても高校生なのだ。
この国を支配する鎌倉幕府の長に勝てるわけがなかった。
義貞も大物を目の前にして、手を震わせていた。
「で、君たちは何をしているんだい?」
「その前に聞かせてください。この人は誰ですか?」
「安田一親くんだが?」
「その一親くんは、存在しない人のはずです。そして、なんでこの装置の中に入っているんですか?」
加賀は、水槽の液体の中に水浸しになっている一親を見直す。
口につけたボンベからは時々泡が出て、安らかに眠っていた。
加賀は睨むように守時を見る。
すると、守時は口を開き真実を吐き出した。
「そりゃそうだ。一親くんはね、遺伝子操作で作られた人間だからね」
▷▷▷▷
気がついたら僕は知らない場所で立っていた。
空は真っ白で、地面は全て水に浸っていた。
水は僕の腰まであって、水面は波もなく静かに揺れている。
「初めまして」
僕が振り向くとそこには局先輩がいた。
らしくない落ち着きすぎている姿に、僕は察する。
「局先輩……いや、安田玲さんですね」
彼女は首を縦に振った。
「はい、実は話したいことがあって……」
「そうですか……。僕にも聞きたいことがあったんです。お願いします。教えてください、真実を」
彼女は「はい」と冷静な声で話し始めた。
▷▷▷▷
私は一年前交通事故に遭いました。
下校途中、雨の降りしきる中、スピード違反の乗用車がスリップして、歩道にぶつかったんです。
私は即死でした。
死ぬなんて考える時間もなく、命が一瞬で消えていったんです。
そこで、私の人生は終わるはずでした。
でも、終わらなかった。
いや、終わったのに、また始まったんです。
私は、幕府の科学技術向上という名目で、死者蘇生実験の被検体として、無理矢理蘇ったんです。
はい、たしかにそれは世界の規定違反です。
知られれば守時さんは、罰を受けることになるでしょう。
その蘇った私には、もう一つの実験を試されました。それは人工的な二重人格を生み出すことです。
その実験も成功しました。その生み出された人格が越前局。あなたの知ってるあの子なの。
越前局は、あなたの潜在能力を引き出す素材として使われることになった。
越前局には、「足利高氏に惚れている」という設定が組み込まれたの。
それで、あなたの前では、私の人格は、越前局になって、接していたの。
それで守時の計画通りに、あなたは越前局に惚れてしまった。
そのままシナリオ通りに進んでしまったことに、それとあなたがこのまま騙されていることに私は危機感を持った。
それで私はありったけの知識で、越前局の人格を遠隔操作する電波を遮断することに成功した。
これで、あなたのためにも、彼女のためにも、計画が止まると思った。
でも、止まらなかった。実は最初から彼女は操作されていなかったの。
守時は、人の中に人格を作り出すことは成功したけど、その人格を操ることには失敗した。
でも、その命令は聞こえるから、彼女は操作されているフリをしていた……。
つまり、彼女は本当に、純粋にあなたに恋してたの。純粋にあなたが好きだったの。
だけど、このままあなたに恋すると、あなたが苦しむことも彼女は知ってた。
だから、断ったの。あなたの申し出を。
その後彼女の人格は、用済みということで、凍結された。
流石に、消すことができなかったから、封印されたの。
彼女はまだ私の中で眠り続けている。
彼女は懺悔していた。私の体を勝手に操り、勝手に恋をし、勝手に逃げたことを。私の中で、彼女は泣き続けている。
だから、お願い。彼女を救い出して。
そして…………私を消して。
▷▷▷▷
「あんた、それを正気で言ってるの!?」
加賀は荒々しく歯ぎしりをした。
守時が語った真実はとても衝撃的なものだった。
禁止されている人間を被検体とした実験、人の心を操って思い通りにしようとしたこと、さらには用済みとしてその人を消そうとしたこと。
その全てに憤りを感じていた。
「正気だけど?」
「人間の実験は違反なんだよ!?」
「知ってる。バレなきゃいいじゃん?」
「人の心を操るなんて絶対にやっちゃいけない!!」
「知らないよ。他人だもん」
「テメェッッ!!!」
加賀は隠していた小型の銃の形をしたヴァサラから、光弾を放った。
しかし、それは守時の目の前で散り散りになった。
「怖いなぁ〜。争いなんてダメじゃないか?」
シールドを展開していないのに、光弾が破壊されたことに加賀は驚いた。
これが執権になった男の力なのか。
加賀は、義貞が脅える理由が分かった気がした。
「まあ、仕方ない。最初に手を出したのは、君たちのほうだ。つまり、僕が君たちを殺しても正当防衛になるわけだ」
段々と守時は悪魔のようなニヤニヤ顔になっていく。
「仕方ないもんね。自分の命を守るためだもん。見つけたのが君たちでよかったよ。高義とか高氏くんだったら勝ち目ないもん」
守時は腰に携えた刀に手を取る。
「じゃあね。あの世に着いたらどんなとこなのか連絡頂戴」
守時は笑顔で刀を……抜こうとしたが止めた。
後頭部にランスがかざされてあったからだ。
「兄貴には、勝ち目ないか……。
じゃあ、俺にはどうなのかな?」
守時は冷や汗をかきながら、声を裏返して返事した。
「あれ? なんでいるの?? 直義くん??? 」




