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無知の知⑥

動き出したのは高氏からだった。


直義は自分にお椀の形をしたシールドを被せるが、シールドは、排水口に流れる水のように、渦を巻きながら、高氏のヴァサラに吸い込まれていった。


マズイと思った直義はシールドを犠牲にして、後ろに退けた。

そのまま吸収されると呼吸困難で気絶する可能性が高いからだ。


しかし、高氏も素早くまた直義に襲いかかる。


(まだだ……まだ我慢しろ……!)


直義は心の中で自分に暗示をかける。


直義がシールドを展開し、それを高氏が吸収するのが何回も繰り返された。


観衆も今まで見たことのない戦いを、静かに見守っている。


そうやって吸収を繰り返すが、吸収量が少しずつ減っていった。



そして、ついにはシールドを吸収できなくなった。


(今だ!)


直義は、ランスの先で、高氏のヴァサラを手から弾く。

高氏は前進をやめ、後ろ走りで距離を作っていく。


直義はこのときを待っていた。高氏の柄は吸収をしてから少しずつ光の粒を発し始めた。


それは吸収しすぎて容量を超えないためであると直義は考え、実際にそうであった。


高氏の攻撃は粒子の吸収のみで、その柄が手から離されれば武士はパワーもシールドもスピードも制御できない。


直義は間髪入れずにランスの展開した銃口から光を放った。


誰もが高氏の負けを確信した……そのとき。




高氏の前に突如としてシールドが現れた。


(なんで!? なんでシールドが使えるの!?)


驚くのは通常だ。高氏は今までパワーとスピードの二つを使ってきた。通常では、武士は三つの能力の内二つしか(戦いで通用するレベルで)使用できない。


にもかかわらず、高氏は易々と三つとも使いこなしている。


しかも、どんな盾を貫く無敵だった光弾(こうだん)が貫くことができないほど、高度なレベルで、である。


そして、もう一つありえないことが起きていた。


それは……、


(嘘だろ? ヴァサラに兄ちゃんは触れていないのに……)


高氏がヴァサラに触れていないのにもかかわらず、シールドを展開していることである。


それに気を取られていた直義に、どこからか光のムチのような尻尾のようなものが、襲いかかり、シールドを展開するも、シールドごと直義は吹き飛ばされた。


「ぐはッッ!!!」


一回戦で鬼のような強さを誇っていた直義がついに地面に背中をつけた。その光景に、客席では驚きでつい席を立ってしまうものもいた。



直義は体を起こすと、目の前には怪奇現象が起こっていた。



さっきのムチのようなものは、高氏の柄から出ていたものだった。

そして、その柄は当たり前のように宙に浮き、そのまま高氏の手元へと帰っていった。


そんなありえない現象を怪奇現象と言わずに何と言おう?


ヴァサラ遺伝子がヴァサラ粒子を操ることができるのは、ヴァサラがその仲介役に入っているからだ。そのためにも、大前提として、武士はヴァサラに触れなければならない。


なのに、高氏は柄を手にしなくても粒子を操ることができるのだ。


正確に言うと、ヴァサラは、その遺伝子からの信号をキャッチして、その信号の波長を増幅させその粒子に送り出すことができるのだ。


しかし、その信号は非常に微弱なもので、ヴァサラと遺伝子を接触させなければ、信号はヴァサラに受信されない。


だが、高氏の場合は違う。高氏は、ヴァサラ支配率が100%を超えているため、強力な信号を送ることができる。それでも、遺伝子が直接、粒子に信号を送れるほど大きなものではないが、自分の半径50メートル以内のヴァサラに送るには十分であった。


(こんなチカラを持ってる人に勝てるのか?)


直義の頭の中にそんな疑問が湧いてきた。


恐怖で膝が笑ってしまっている。自分より強い相手がいることは分かっていた。だが、これほどまでの実力差がある相手が現れるとは思っていなかった。


それも不幸なことに、その相手が、争いを嫌い誰にも優しい自分の兄である。


求めているものを提供せず、求めていないものを授けた神に、直義は憤りを感じざるをえない。


高氏は、この上なく悲しい表情で、一歩前に進んだ………………瞬間、姿が消えた。


(え?)


「うわッッ!!!」


直義の真後ろから、ムチが飛んできた。


その作用で直義は前に転がる。


「くっ!」


もう一発放たれたが、すぐに体勢を直した直義は、シールドを展開し何とか防ぐ。


そこから攻守が素早く入れ替わる攻防戦が始まった。


高氏がムチを放てば直義は防御し、その瞬間直義がランスで高氏を狙って突く。そして、それを高氏が防ぐというのがずっと続いた。


高氏は飛び跳ねたり、しゃがんだりして、様々な角度で打ち込んでくる。体験したことない義貞以上のスピードとパワーでの攻撃に、直義は戸惑ったが、何とか同じスピードで演算し、それに耐えられる強度のシールドを瞬時に出していく。


戦ってから無言の高氏だが、弟の踏ん張りに驚きの表情を見せた。


(まだチャージが足りない!)


直義がランスから光弾を放つにはある程度粒子のチャージが必要である。

のみならず、相手は高氏である。あのシールドを壊すには相当のチャージが不可欠だ。


(早く! 早く終われ!! そうしないともう頭が追いつかない!!!)


流石の直義もハイスピードかつ正確に膨大な演算を繰り返すのは疲労が溜まる。


顔が青ざめてきたころ、ついにチャージが終わった…………。


「今だッッ!!!」


直義はこの一撃にすべてを賭けた。


直義は一回跳ねて、高氏の頭上に銃口を向ける。


その高氏に向けられた銃口から、膨大な量の光が遠慮なく放たれた。



▷▷▷▷


膨大な光は地面に大きいかつ深い穴を開け、地下から海水が勢い良く飛び出した。


湧き出てきた水で、会場もとい観衆びしょびしょに濡れる。


その水温が、暑い夏にはちょうど良い温度で、観衆の中には心地よく浴びてる子どもがいた。


なんでこんな危ないところに来てしまったのか…………「僕」は疑問に思った。


光が止むと、目の前に直義が驚愕の表情で、日光を遮り、僕のところに日陰を作っていた。


先ほど、誰よりも速く、誰よりも強い攻撃を連続して喰らわせたのに、それに対抗する直義は本当に強いんだなと確信した。


そこで、僕は戦略を変更した。


半透明なシールドの向こうの直義に向けて、僕は八つムチを柄から出し、放った。



▷▷▷▷


高氏が放った八つのムチの先端が直義を刺そうとしてくる。

もちろん直義は自分を包む球形のシールドを展開する。


たかだか八つに増えたところで直義はそれらを防ぐ自信があった。

八つでは、である。


その一本一本をよく見ていると毛筆のようにそのムチは何万、何十万本ものの光の針で構成されていた。


直義は、それに気づくのが遅かった。たとえ間に合っていたとしても、直義にそれを完全に防ぐ術はなかった。


放たれた針の内、何万本が直義のシールドをくぐり抜けて、バトルスーツに突き刺さった。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


誰も聞いたことのない常に勝者であった直義の悲鳴が会場に鳴り響く。


直義はそのまま重力にしたがって自由落下した。


「あ゛、あ゛、あ゛……………………」


直義は体中を何かが蝕んでいる感覚がした。


地面に出来た水たまりがとても冷たい。


それでも勝ちたいという信念だけで、顔を上げる。


スクリーンの自分のゲージでは、47%と記載されていた。

まだ逆転の猶予がある。義貞だってあんな状況から逆転できたのに、自分ができないはずがない。そういうプライドが直義を突き動かした。


半目になりながらも、高氏を見ると、もう泣き目になっていて、有利であるのにもかかわらず、負けたような暗い顔をしていた。


高氏はシールドを展開したままで、ムチを尻尾のごとくクネクネと空中に漂わせていた。


それを見て、直義は、小さい頃、家族と一緒に行った水族館で、高氏が夢中で見ていたクラゲを連想した。


クラゲの儚そうに水中を漂う姿と、高氏の悲しそうに戦う姿が直義の中で重なり、そこには美しさすら感じた。


高氏は、防御も攻撃姿勢も解き、クラゲの姿は幾万もの光の粒となって消えた。


「何……やってんだよ……? 戦い……は、終わ……ってないだろ?」


地面に胸から叩きつけられたせいで、呼吸困難ながら、苦し紛れに直義は声に出した。


そして、力を振り絞り立ち上がる。


直義がランスを振りかざしたその瞬間……。


「もう終わったよ……ごめんな」


直義のバトルスーツから火花が散り、そのままゲージが0%になる。


直義は背中から倒れる寸前あることを思い出した。




そうだ……クラゲの触手には毒があったんだ……。








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