青春の始まり②
さて、どうしたものか。
演奏に夢中になりすぎて、彼女の顔すら覚えていない。
髪は長かったって? 短かったっけ?
背は高かったっけ? 低かったっけ?
何も分からない……。
手がかりがないのに、どうやって彼女を探せばいいんだ?
ずっと、そんなことを考えながら、窓を見ていた。
もちろん、授業は聞いてない。
そして、気がついたらあっという間に、昼休みに入っていた。
「もう昼か……。いつもより授業が短く感じたな……」
「そう? いつもより、めんどくさい内容で、あたしは長く感じたよ」
あくびをしながら、加賀は応答した。
男勝りな性格に似合わず、手元にある弁当は加賀が作ったものらしい。
しかも、タコさんウインナーかよ……。
何気、女子力高いな……。
僕と屋上で、あぐらかきながら昼食をとっているくせに。
「またあんた、授業聞いてなかったの?」
「もう予習済みだからいいよ」
「予習のあとの授業が重要なんでしょ」
「似合わず、真面目だよな……」
「似合わずとは何よ」
「だって、ショートカットと、スカートの中の短パン、焼けた肌……まさに、勉強ができないスポーツ女子の典型じゃん」
加賀は「ウッ……」っと、反論できずに、苦い顔をした。
「てか、次の授業、あんたどうするの?」
「どうするのって……次、なんだっけ?」
「次は、ヴァサラの実習でしょ」
「あー……」
あれか……。
「いいや、受けなくて」
「ヴァサラの授業は必修なのに、またサボるなんて……流石、足利家の方は違いますね〜」
加賀は皮肉たっぷりに言った。
「それだけじゃなくて、生徒は立ち入り禁止の屋上に、唯一生徒で入る権利もってるもんね〜」
お願いだから、そのじと〜とした目をやめてくれ……。
「じゃあ! さらば!」
僕は、その空気に耐えることができず、逃げ出した。
▷▷▷▷
「失礼しまーす……って、先生いないし」
僕は加賀から逃げた後、保健室に向かった。
いつも、あの授業のときは、僕はここで寝ている。
本当は、出なきゃいけないけど、僕は先生たちから許可を得て、サボっている。
教師公認のサボりなんて、生徒皆が羨む代物だ。
だから、僕のことを妬んでいるものは少なくない。
それが嫌で、僕は屋上で昼食をとっている。
まあ、それも僕しか公認にされてないから、また皆の反感を買っているわけだけど。
先生がいないが、勝手にベット借りても大丈夫だろう。
僕以外、この部屋にはいなさそうだし。
そう思ったが、僕は、何故か保健室の奥にある扉に目をやった。
そこは、毎週水曜日にカウンセラーの先生が来て、生徒の悩みを聞いている。
まあ、そのほとんどが、聞くかぎり大したものじゃないけど。(別に盗み聞きしているわけではない。相談者の声が大きすぎて、嫌でも聞こえるだけ)
今日は、金曜日。カウンセラーの先生がいるわけではない。
でも、僕はそこから誰かの気配を感じた。
僕はその扉に手をやる。
そして、深呼吸してから開けてみる。
そこには……。
「あっ、どうも。足利君」
長い髪、白い肌、凛とした瞳、薄いくちびる、涙ボクロ……ずっと、思い出せなかった姿がそこにはあった。