無知の知②
パリンッッ!!
僕の部屋の窓が無惨に木っ端微塵になり、破壊されたクローゼットが焦げて煙を上げた。
何事かとぐっすり寝ていた僕は跳ね起きる。
外はすっかり暗くなっていて、外よりも真っ暗な僕の部屋の中に黒い影がクローゼットの残骸から姿を現す。
僕は枕元のヴァサラを構えるが、黒い影が纏っていたバトルスーツがオレンジ色の光を放って、手にしていたアサルトライフルが照らされた。
そのヴァサラには見覚えがあった。
そして、ヘルメットのミラーシールドを上げると、中から嫌なほど知っている顔が現れた。
「ああ、加賀か……いや、なに俺の部屋壊してくれちゃってんだよ!」
一瞬、安堵の表情になったが、すぐに眉間にシワをよせた。
「仕方ないでしょ。夜になってもマスコミが門の前にたむろってるんだから」
「だからってやって良いことと悪いことがあんだろ!?」
「嘘も方便。時によっては悪事は正当化されるでしょ? あたしはこれを正当化するほどちゃんとした理由があるの」
「ちゃんとした理由? なんだよ?」
「まずはリビングに行きましょ。疲れて喉乾いちゃった」
「いや、自分ん家みたいに振る舞うなよ……」
特に謝罪もせずに、加賀は僕の部屋を出て、一階のリビングに向かった。
その行動に少々怒りを感じながらも、自分を落ち着かせて僕は加賀のあとを追った。
▷▷▷▷
「はい」
ヘルメットを取った加賀は、当然のように冷蔵庫の中にあるジュースをコップに入れてソファに座ってる僕に出してきた。
他に炭酸飲料やコーヒーがあったと思うが、僕がそれらをあまり好まないのを知って、お子様の王道オレンジジュースを選んでくれたことは嬉しく思う。
僕はそれを飲んで、コップを机の上にのせてから、隣に座った加賀に問い出す。
「で、何のために、あれだけのことしてまで俺ん家に来た」
「見てもらいものがあるの」
そう言うと加賀はバトルスーツの胸裏にあるポケットから直方体の端末を取り出した。
そして、端末のスイッチを入れると端末は空中に画面を映し出され、その中央に一人の女性の写真が映っていた。
「局……先輩」
「あー、やっぱそうなるかぁ…………」
加賀は僕の一言を聞いて文字通り頭を抱えた。
悩ましい表情で何かをブツブツとつぶやき始める。
「おい、これがどうしたんだよ? 一人で考えてないで、教えてくれよ」
加賀は唇を気まずそうに動かしながらも、必死に口を開けた。
その口から信じられない一言が放たれた。
「この人は越前局じゃない……」
どういうことだ? どう見たって局先輩じゃないか。着てる制服もうちのものだし。
「この人は、安田玲。一年前まで私たちの学校にいた人よ」
「『一年前まで』ってどういうこと?」
「亡くなったのよ。一年前に」
亡くなった? そういえば一年前に、全校集会でそんな話をしていたな。
なんだこの動揺……。知ってはいけないことを知ってしまったように感じる。
僕は服の右胸を掴み、動揺を抑えようとする。
「でも、その人が局先輩に似ているって話だろ? それがどうかしたんだよ」
その儚い仮設は無惨にも崩れ去る。
「越前局なんて人、鶴岡高校にいないのよ……」
じゃあ、僕と楽しく会話して、笑って、泣いてくれた彼女は……一体誰なんだ?




