義貞⑥
赤コーナーから僕がステージに入ると、すでに闘技場は歓声に包まれていた。
しかし、これは僕に向けてではない。
今回で、ヴァサラが公開される親房さんに向けての声援である。
北畠家は今回で最新ヴァサラを公開すると二日ほど前から大々的に宣伝していた。
この会場に集まったのは、だいたいは、発表から一週間足らずで開催される大会に臨機応変に参加した、いわゆるミーハーと言われる人たちである。
その宣伝に恋心のように胸を熱くしたに違いない。
一方、彼らの僕に対する評価は、その最新兵器のやられ役。
僕が最新ヴァサラにボコボコにやられる姿を各々胸に描いているのだ。
そして、笑顔で観衆の拍手に応えている親房さんも、同じような絵を頭に浮かべているのだろう。
「スゲー! あれ二刀流だよ!」
「世界初じゃない!? 二つ同時に使うなんて!」
「親房はスピード重視だろ? 二つの刀を光の如く振り回すのか! カッケーッッ!!」
「やっちまえーーー!!」
親房さんにプラスの反応をする一方、僕に対する反応はというと。
「何あれ? 刀の刃がないじゃん?」
「あんなので勝てんのか?」
「流石! 最下位にはふさわしい武器だぜ!」
「二刀流を前にボコボコにやられる気満々じゃん!!」
僕にはマイナスどころか氷点下並の反応を見せるのである。
そんな言葉が交差する中、僕は所定の位置につく。
親房さんの笑顔というよりドヤ顔で余裕がある雰囲気を醸し出している。
それに対して、僕は明らかに心配そうな顔をしてるだろう。
「始めッッッッ!!!!!!!!!!」
「ごめん! 勝たせてもらうよ!!」
表面だけの謝罪をし、親房さんは義貞並のスピードで僕に襲いかかってくる。
空気を切り裂く音が、歓声をも切り裂いていく。
そりゃ心配だよ。
僕の目の前にしたり顔が現れる。
その目は人間のものではない。獣のものだった。やはり、親房さんも武士。新しい武器を使いたくてウズウズしていたのだろう。
だって…………。
したり顔が両刀を振り落とす。
だって、ちゃんと手加減できるか分からないから。
一瞬の光が会場を包む…………。
ドスンッッッッッッ!!!!!!!!!!
そして、人が地面に叩きつける音が続けて起こる。
観衆の眩んだ目が回復したころには、僕の目の前に死んだ魚のような顔をした親房さんが横たわっていた。




