表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/111

義貞②

ナレーターの合図が鳴った瞬間、信武の目の前に、義貞の姿があった。


薙刀の刃と信武の間にまで、義貞は間合いを詰めたのだ。


一瞬で、コンマ何秒で、義貞は約20メートルも移動したのだ。


その情景に、こだまのように、観衆の衝撃が遅れてやってくる。


「終わった」


誰かが言った。



しかし、そんなことはなかった。


義貞の剣は空中で静止していた。


いや違う。信武に振り落とした剣は、半径20センチメートルほどの半透明な円で防がれていた。


「何ッッッッッッッッッッッッ!?」


その情景をテレビの向こうで見ている者よりも、控え室のモニターで見る他の選手よりも、すぐ近くで肉眼で見ている者よりも、義貞が驚いた。


さっきも言ったが、義貞は短気である。


だからこそ、長引く試合は好きではない。


一発勝負。


それが義貞のスタイルである。


しかし、その渾身の一発が決まらなかった。


義貞は諦めずに何度も振るう。


常人が瞬きをしている間に、二発、三発と角度を変えて繰り出す。


それでも、信武の盾が、その角度に合わせて防いでしまう。



至近距離で、マシンガンのように繰り出す剣筋をすべて読み切っているのだ。


「ちッッ!!!」


しびれを切らした義貞は、距離を置こうと、後ろに下がろうとする。




その瞬間……薙刀の刃が横から義貞の頭に放たれる。


「ぐッッッッ!!!」


キィィィン! と間一髪、義貞の剣で防がれるが、義貞の体は、そのまま簡単に吹き飛ばされる。


そして、そのまま地面に打ち付けられる。


すると、会場の巨大モニターには、両選手の名前とその名前の下に横長の長方形のメーターがあり、「新田義貞」の下のメーターの青い部分が減った。


それぞれが二人のバトルスーツの防御力を表したゲージである。


この大会では、ゲージが30%を下回ると負けとなっている。


義貞は、顔面を覆うヘルメットの損傷もあるため、大きくゲージが減っていく。


特にヘルメットの損傷は、ゲージを大きく下げることになるのだ。


そして、ゲージは64%で止まった。


(おいおいおい、俺のあのスピードに追いつく薙刀って何なんだよ!?


こんなこと初めてだぞ!)


義貞はすぐに立ち上がり、相手の間合いを見る。


(信武さんは、パワーと防御の組み合わせができるタイプだ。


ってことは、スピードは常人並か、それ以上でも俺には遠く及ばない……はずだが)


義貞はすぐさま、ハイスピードで、信武の背後から飛びかかり、渾身の一発を繰り出す!


だが……、


「甘いよ」


すぐさまシールドを展開され、反作用で、そのまま空中に吹き飛ばされる。


なんとか着地し、ゲージの減少を防いだ義貞は、もう一度相手の様子を見始める。



たしかに信武は、スピードがそこまで速いわけではない。


しかし、完全なる防御と、トップレベルのスピードを誇る義貞の動きを捉える目、さらには、その動きに合わせて繰り出される剣技がある。


まさしく、信武は義貞の天敵とも言うべき相手だろう。


(てか、あのシールドなんだよ!?


ヴァサラで発生するシールドは小さいほど強くなる。


大体は、大人の男の体全体を守れる大きさで、小さくするとしてもその上半身くらいの小ささのはず。


あんな小さいの見たことねーぞ!)


シールドは小さければ小さいほど強度を増すが、共に守れる範囲が狭くなる。


信武の目と、異常なシールドの発生速度があるから、為せる技だろう。


全く動かずに相手の攻撃を誘う信武に、いくら攻めても意味がないことは、義貞にも理解している。


しかし、何度も言うが、義貞は気が短い。


何十秒も様子見ができるわけもなく、イライライライラと、頭が熱くなっていく。



「うぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


義貞は飛び出す!


(何度やっても同じなのに)


信武は冷静に義貞の剣の振られる方向に合わせてシールドを発生させる。


「うらっ! やっ! こらっ! んぁ! 」


義貞は叫びながら剣を振り続ける。


しかし、百発を超えても、信武に届く事はなかった。


(嘘だろ!? これだけヴァサラ粒子の濃度が高いシールドを、こんなスピードで、これだけ多くの数を出しているのに顔色が一つも変わりやしねぇ!)


また下がろうとすると、薙刀が襲いかかってくる。


義貞は前に進むしかなかった。


でも、このままでは体力が消耗し、隙をつかれて止めを刺される!


義貞には、たった一つの勝利を手にしなければいけない理由があった。



▷▷▷▷


二年前、高校に入学したばかりの頃、義貞は遊んでばかりいた。

テキトーに勉強し、テキトーにヴァサラ演習を行っていた。


勉強はすこぶる悪かったが、ヴァサラ演習は違った。


義貞は、ヴァサラの腕に長けていて、鶴岡高校の生徒は、誰も義貞に勝てなかったのだ。


周りからは、「我が校始まっての天才」とか、「神童」とまで言われた。


それで鼻を長くした義貞は「俺は天才、努力なんていらねー!」と勘違いをし、夜遅くまで悪友と酒を飲み、授業はすべて寝ていた。


新田家は他とは違う! こんなことしても許される家なんだよ!


心の底からそう思っていた。


しかし、二年生になった途端、事態は急変する。


飛び級で入学し、圧倒的な力で上級生をねじ伏せる化物が出てきたのだ。

しかも、幕府ナンバー2の家柄の出身で、義貞と違い「ド」真面目。

勉学においてもトップを走り続けている。


そう、足利直義、その人だ。


義貞と直義は昔から仲が悪く、何度も何度も戦ったことがある。


決して、義貞は負けたことはないが、勝ったこともない。


勝負はいつもどちらもボロボロになって終わる。


学校では、「あの義貞にも負けず劣らない」とか「総合的には義貞に勝る」と言われ、義貞の名は、直義を評価するための踏み台と化していた。


その事実にショックし、義貞はさらに悪友との交流を深めていった。


そんなある日。


義貞は直義との勝負で腕に擦り傷(というよりもあまりの太刀のスピードで火傷している)を消毒し、包帯を巻いてもらおうと保健室に行った。


そこには、先生がいなかったが、ベットの上に女の子が座っていた。



長い髪、白い肌、凛とした瞳、薄いくちびる、涙ボクロ。



完璧ともいうべき美貌に一目見て、義貞の心臓はこの上なく高鳴った。


「どうしました!? その怪我!?」


彼女は義貞の怪我を見て、動揺し、近づいてくる。


花の蜜のような甘い香りが彼女の髪から漂う。それは媚薬のように義貞の脳を麻痺させた。


「いや、ヴァサラ演習で……ちょっと……」


「ちょっと待っててください!」


彼女はそう言うと、保健室の洋タンスから、包帯と消毒液を取り出し、義貞の治療をした。


「いたっ」


「だっ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫、大丈夫。俺は強いか、いたッッ!」


「もう強がらないでくださいよ」


彼女が笑う。

それは、義貞にとって、目だけでなく傷だらけの体の保養にもなった。


「でも、女の人って……強い男が好きだろ?」


女の子には人見知りをする義貞の精一杯の質問である?


「え? そんなことないですよ?」


「ほ、本当に? でも、親父やお袋が……」


「まあ、男の子はそう育てられるから勘違いしますけど、そうじゃありませんよ」


うふふと、小鳥の鳴き声のような美しさで彼女は笑った。


「じゃあ……君は……違うの?」


「ええ、私は頑張ってる人が好きで……って、大丈夫ですか!? 顔真っ赤ですよ!」


「ちょっと、熱でもあるみたいだ! 早く病院にいかなくては!! 包帯も巻き終わったみたいだし、さらば!!!」


義貞は、保健室を飛び出し、そのまま走り出した。


行き先は分からないが、とりあえず、保健室から遠く離れるように……。


それから義貞は二度と彼女に会うことはなかった。

▷▷▷▷


(俺はあれから心を入れ替えて、もっと強くなろうと努力した!

俺は天才じゃなくてもいい、秀才であればいい! そんことを思えるようになったんだ!


その成果を今、見せてやらないといけない!


きっとどこかで見ているあの子に、どれだけ頑張ったのかを示さなければならい!

)


その想いで、意地で、義貞は剣を振り続ける。


「くッッ!」


義貞の勢いに押され始める信武。


(やるな、義貞……。だけど、お前にもうスタミナはないはずだ!)


義貞の顔は、あのときのように赤く染まっていた。

しかし、原因は前とは違い、それだけ本気を一発一発に込めているからである。


義貞は思った。負けると。


思いたくもないが、負けると。


絶対嫌だが、負けると。


(どうせ負けるなら…………!)




義貞は一歩退いた……。



それが意味するのは……。



(喰らえ!!!)



信武は薙刀を繰り出す!



その薙刀が義貞の頭の側面を打つ!!



しかし、それは、刃の部分ではなく、柄の部分である。



その攻撃を受けて、義貞の体は空中で側面から回り出す。


否。


正確には、義貞がその力を利用して、回転したのだ。


空中にいられるのは一秒足らず……。


しかし、そんな時間があれば、義貞には十分だった。



義貞は、回転しながら、全力で剣を振るった!


(何ッ!?)


パワーにすべてのヴァサラ粒子を集中させていた信武は、それを防ぐことはできず、92%、85%、73%、と次々とゲージが減っていく!



そして、義貞の頭上が地面となったとき、信武の足が払われた!



信武は体勢を崩し、倒れこもうとする。



その頃には……すでに、義貞の足が地面に上手く着地した。


「すみません。マット運動とか得意なんですよ」


さっきまでのキツそうな顔とは一変し、ニヤニヤとなった。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」



義貞が放った一撃は、信武の顔面を振り切った。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ