義貞
さて、そろそろ義貞の話をしよう。
僕と先輩が病院の後に過ごした時間は、個人的に恥ずかしくて語ることができない……。
別にいやらしい意味ではない!
これは絶対だ!
ただ……ただただ恥ずかしいことが起きたとだけ言っておこう。
ここで言えることは、あれから足利兄弟の間で会話がなくなってしまったこと、そして……局先輩とも会っていないということである。
閑話休題。
それにしても義貞だ。
あいつは、昔から知っている。
足利家と新田家は近い親戚で、よく交流があった。
しかし、その境遇の差は歴然としていた。
足利家は生き残るために、源氏の末裔であるにもかかわらず、平氏の末裔である北条家から正室をとり、その地位を確かなものにしてきた。
それとは逆に、新田家は昔からプライドが高く、北条家に従ってはいるものの、それは建前であって、本音は深く恨んでいるのだ。
それゆえに、足利家は新田家よりも幕府に優遇されているのだ。
そして、その北条家と血のつながりを持ち、地位を得た足利家を心の底から妬み、嫉んでいる。
その次期当主・義貞は、僕の幼なじみである。
あいつは口下手で頑固で短気。そして女性にはめっぽう弱い。
しかし、口下手だが、戦は上手。
拳で語る典型的な不良青年である。
こうして言葉を羅列して、義貞を表現するより、義貞の戦いを見てもらったほうが早いだろう。
時は7月2日。剣舞大会1回戦第一試合の日である。
▷▷▷▷
「東! にったぁぁぁよしさだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ナレーターが甲高く叫ぶ。
そして、東口から、青いバトルスーツを着た新田義貞が、諸刃の剣を手に出てきた。あれが義貞のヴァサラである。
リーチは長すぎず、短すぎず、コンパクトなサイズになっている。
義貞が登場すると、怒号のような民衆の歓声が荒波のように義貞を飲み込む。
これが義貞の心を震えさせた。
あまりの気持ち良さに、
「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」
と叫ぶ。
それが山美鼓のように観衆から叫び返される。
たまらない。この日を待っていた。俺が活躍できる場所をな!
この場所は、普段は野球場として使われているが、ヴァサラへの強度が高い設計から、闘技場としても使われている。
客席の最前列には、防御に長けた武士たちが配置され、観客を守るという仕組みだ。
これで安心して出場者は本気を出せるというわけだ。
そして、対戦相手は……。
「西! たけだぁぁぁぁぁぁのぶたけぇぇぇぇぇぇ!!!!」
武田信武。甲斐武田家の当主である。守時や高義と同世代で、腕っ節の強さ、そして、和歌などの文学的才能にも富んでいる。
彼のヴァサラは、薙刀。
リーチは長い分、相手に寄せられたら、攻撃を防ぐことができない。
つまり、義貞と信武は、近距離対中距離の戦いになるのだ。
赤いスーツを纏った信武は、その色とは対照的に、冷静に観衆に笑顔で手を振りながら前に進む。
そして、2人は所定の立ち位置で止まり、互いを見る。
「久しぶりですね、信武さん。あなたとここでやり合うことができて嬉しいですよ」
獣のような目をしながら、ニヤッと笑う義貞。
「そうだね、義貞くん。君がどれだけ成長したのか見せてくれよ」
上品に笑ってはいるが、目の奥に獣を宿す信武。
似たようだが、違う印象を彼らからは受ける。
2人は、強敵を前にして、武者震いをしている。
怯えるどころか、逆に早く戦いたいと興奮しているのだ。
気がつけば闘技場からは誰の声も聞こえなくなり、閑散とした空気が流れていく。
皆、ナレーター席からの合図を待っている……。
そして………………、
「始めッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
戦いの火蓋は切って落とされた。




