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灰空(はいから)

「どういうことですか!?」


会見後、守時の控え室に高義が乗り込む。


「おー、高義くん。昨日ぶりだね」


会見のときと打って変わって、守時は冷静な大人っぽい印象を漂わせる。


「守時先輩。高氏が剣舞大会に出るって、それも北条家代表で出場するっていうのはどういうことなんですか!?」


守時は一杯のお茶を飲み干してから、遠くを見る目で答える。


「あれはだいたい高校生のときの成績を反映させているんだよ。義貞くんも直義くんも十分な成績を残している。だから、それぞれの家の代表に選ばれた。……だが、高氏くんは悪くはないが彼らには劣る、だから北条家代表という枠を作ったのだよ」


「成績が関係するん、だったら、出場しなくてもいいじゃ……」


「しかし、高氏くんには、彼らをはるかに上回る能力を持っている。違うかね?」


高義は「なっ!」と言葉をつまらせる。


守時は、お茶を入れ直すために、部屋の隅の机の上にあるポットに近づく。

そして、そのまま話を続行させる。


「君も知っているだろう? 彼が鶴岡高校のヴァサラ適応検査において、試験用ヴァサラを故障させたことを。彼のヴァサラ支配率(自らの全身のヴァサラ遺伝子のうち、使用できるヴァサラ遺伝子の割合)は約100%、もしくはそれを越えるかもしれない」


「100%を越えるって、それは……」


「そうだ。他人のヴァサラ遺伝子すら操ることができるかもしれないということだ。

ヴァサラ遺伝子は空気中や地中、水中など、ありとあらゆるところにあるヴァサラ粒子を操るコントローラだ。

他人のヴァサラ遺伝子を暴走させれば、相手自身にヴァサラ粒子を刃として向けさせることも可能だ」


自分のヴァサラ遺伝子が自分自身に牙を剥く……考えるだけでも恐ろしい。


そんなことが可能なのだろうか?

しかし、高義は、高氏ならできるかもしれない。そう思ってしまうほど、高氏の潜在能力は桁外れなのだ。


「君とは長い付き合いだから言うが、今回の大会は何もただの娯楽ではない。幕府が先の戦争で、大きな傷を負った。それによって経済状況が悪化し、幕府に敵意を向ける者も増えてきた。きっとその内、日本で内乱が起こるだろう」


まさか……。


「その気を起こさせないためにこの大会を……!?」


「そうだ。幕府にはこれほど優秀な軍人がいると分かれば、安易に楯突こうとは思わないだろう。それにこれはテストでもある」


「テスト?」


「私も知りたいのだよ。私の幕府に、どれ程の漢たちがいるのかをね」


言いたいことは分かる。たしかにこの状況に下手に手を加えたら、簡単に崩れてしまう。

まず崩れないように固定しようと守時はしているのだと、守時は思った。


しかし……。


「高氏なら出場しませんよ」


守時はお茶を入れ直すと、すぐにさっき座っていたパイプ椅子に戻った。


高義は真剣な面持ちで守時の合わせてくれない目を見る。


「高氏は、争いごとが嫌いだ。それは兄として私はよくわかっている。きっと高氏はこの大会を棄権しますよ」


そう。たとえ幕府のためといえど可愛い弟に苦痛を与えるわけにはいかない。


直義は、きっと言うことを聞かないで出場するかもしれないが、最善を尽くして止めなければ。


高義はそんな使命感のようなものを感じた。




「それは無理だ」


守時はあっけなく応答する。


「無理とは?」


「高氏くんなら、きっと出場する。私には分かる」


高義は、最初、守時の言っていることを理解できなかった。


しかし、ブルブルと震えたケータイを開き、表示を見ると、局からのメールが来ていた。


実は、足利家に局が遊びに来た日、高氏が外に出る準備をしている間に、こっそりと聞いたのだった。


「高氏に何かあったときや、君の身に何かあったときのために」と言って。


人前では、仮面優等生であるために、簡単に信用され、メールアドレスを交換したのだ。


そのメールにはこう書いてあった。


"高義さんへ


今、登子ちゃんから、緊急で高氏くんが赤橋家の病院に連れていかれたと聞いたので、登子ちゃんと一緒に病院に向かっています。


越前局より"


このメールは、さっきの言葉の理解を促進させた。


「守時先輩! あんたまさか!?」


守時は冷静な、冷血な態度なまま、お茶をすすった。


明らかにおかしい。高氏はいつも通り体調は優れていた。体が弱いわけではないから、いきなり病院に搬送されるわけがない!


それに、何より……なんで、搬送先が赤橋家の病院なんだ!?


高義の脳裏にある答えが浮かび上がった。



「あんたもしかして、人質をとるつもりかッ!?」


高義は声を荒くして叫ぶ。

ドシドシと大きく足音を立てて、守時に近づく。


「あんたは高氏を何だと思っているんだ!?」


「落ち着け!」


守時は、高義を右の手のひらで静止する。

左手で茶碗を持ったまま。


「止めてくれよ。喧嘩では、君にかてないんだからさ。それにここで戦っても何も意味ないことは分かるよね?」


くッ……たしかにその通りだ。今ここで戦うことで、局ちゃんの身がさらに危険になる可能性もある。

冷や汗が高義の頬をつたう。


守時は立ち上がり、高義もといは扉のほうに向かう。


そして、



「君こそ高氏くんが何なのか分かってないんじゃないかな?」



そう高義の耳元で囁き、「じゃあ、俺は病院に行かなきゃいけないんで」と言い、高義を通り越し、ドアノブに手をかける。


そのまま守時は部屋を出る。


その前に、


「あっそうだ。君が病院に来たら、二人はさらに危ない目にあうかもよ」


と捨て台詞を残して。





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