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夢現⑦

翌日、僕はいつもと同じくリニアモーターカーに乗る。


下野国から鎌倉までの遠い距離をこれならすぐに着くことができる。


3つの席が連なるものがそれぞれ両側にあり、3つとも空いてるところがあったので、僕は窓側に座る。


そして、行き良いよく流れる景色を眺めながら、昨日のことを考える。


寝れば忘れると思って、あの後さっさと寝たのだが、恐ろしいほど鮮明に昨日のことは脳裏に焼き付かれた。


先輩と流星群を見た良い記憶だけならまだしも、兄さんとの会話も、である。


今日の会見は、午前8時半……つまり僕らが教室に着いたころに、始まる予定だ。


「高氏くん」


執権の貞顕さんは何度か会ったことがあるが、優しく生真面目な方である。


「高氏くん?」


彼が執権になるなら大喜びだが……だけど、もし彼が……


「高氏くんッ!」


「あっ、はいッ!」


僕の体が大きく揺さぶられる。


びっくりして、つい、大きく返事をしてしまった。

周りの人たちが僕に注目する。


僕は軽く頭をペコペコと下げて、謝意があることを示す。


「どうしたの? そんな怖い顔をして……呼んでるのにも気づかないし……」


そう心配そうな顔をする彼女、局先輩は、僕の二の腕を掴んだまま、僕の顔をじっと見つめる。


「いいえ、ただ学校の課題が大変だから、どうしようか考えてただけです」


咄嗟に嘘をつく僕。


「そうなの? 何の課題?」


「ソフトを使った自由工作ですよ。自由なんで何をやったらいいのかと……」


実は、すべて嘘ではない。実際にそういう課題は、期末テストの代わりとして出された。


「そうなんだ……たしかにやることを自分で考えることは大変だよね……うんうん」


彼女は目をつむってうなずく。


「たとえば何をすればいいんですかね? アイデアあります?」


「うーん、私は音楽作成かな」


「先輩、音楽好きですもんね。先輩の作った音楽聞いてみたいなぁ」


それは心の底から思うことだ。

先輩の奏が、先輩の作った曲と重なるとどうなるのだろうか?


「あの……実は……」


先輩は急にもじもじし始める。


「高氏くんが聞いてた曲……私が作曲したやつなんだ……。だから……余計に……聞かれたのが恥ずかしくて……」


「え? そうなんですか!?」


先輩の曲? 僕はずっとあれを有名な作曲家が作ったものだと思ってた。


あまりクラシックに詳しくないが、少しばかりは聞いたことがある。


そのどれよりも、僕の心を揺さぶった。


僕が好きな詩集のどの詩よりもそれは僕の体が熱くなった。


もう一度味わいたい……あの感動を!


「先輩……今日、放課後時間ありますか?」


「え?」


「聞かせてください。先輩の曲、全部の、最初から最後までのパートを」


泥だらけの僕を洗い流してくれ。

そして、僕の心の中のドス黒い雲を吹き飛ばしてくれ。


僕は頭を深く下げる。

強く目をつぶり、祈る。


先輩の両手が僕の両肩を掴み、僕の上半身を起こさせる。


目を開けるとそこには、


「もちろん、いいよ」



心地よい陽の光のような微笑みがあった。



▷▷▷▷


そのあと僕と先輩は、リニアモーターカーから降り、駅から数分歩いて、まだ六月なのにビルのガラス窓に反射した光が集中し、灼熱地獄もなった通学路をくぐり抜け、鶴岡高校に到着した。


それまでの間はちょっとした雑談が続いた。


小さい頃に何して遊んだとか、好きな本は何かとか、その程度のものだ。


校門をくぐり、僕と先輩は「じゃあ、また」と言って別れた。


この学校は、三学年がいる校舎、一、二学年がいる校舎、そして、その間にある共有校舎の3つの校舎から成っている。


その3つ校舎は凹の形をして並んでいるのだ。


だから、僕は三学年と会うことはほとんどないし、逆もそうだ。


僕は小走りで昇降口に走っていく先輩の背中がある程度小さくなってから、昇降口に向かった。


昇降口に着いたら、まず靴を脱いで、二段構造になっている下駄箱の下の段に靴を入れる。


そして、上の段にある上履きを取ろうとするのだが……。


あれ? なんだ、この感触?


このザラザラ感……どうやら紙のようだ。


僕はそれを取り出す。



そこには、ハートマークで留められた、嘘みたいに典型的な、手紙が入っていた。


……えぇッッ!?


驚きと何だか分からない感情で僕の心臓が悲鳴を上げている。


だが、残念ながら、僕はこの誘いを断るだろう。だって……。


僕は息を飲んでその手紙を開ける。




すると、僕の心臓は停止しそうになった。



そこにはこう書かれていた……。




「わたしと一緒にセカイを手に入れませんか?」








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