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夢現⑤

あたりはすっかり暗くなり、誰もいない道を僕と先輩は進む。

父が建てた街灯が僕の足元を照らし、安全に目的地へと導いてくれるのはありがたいことだ。


しかし。その白く照らされたアスファルトしか僕の視界にはない。


歩くとき、前だけを向いている人たちは何人いるのだろう?


鎌倉のような高層ビル群があり、人口密度が高く、前を向かないと人とぶつかってしまうところでは、前を向くのは当たり前だが、この田舎町のような夜に人と会うことなどあまりない環境なら皆下を向いて歩くはずだ。


僕も小学生から地面ばかりを見ていた。

決まった道、決まった景色、それらに飽きてただただ黒いものをずっと。


考えてみれば、それは僕の人生を写しているのかもしれない。


武士の家に生まれた以上、どうせ僕は政治に関連した職につき、好きでもない人と政略結婚し、子を作り、また同じ道を子どもに強いるのだろう。


決まった人生(みち)に飽きて、ただただ灰色の青春を過ごしている。


ただただ、にだ。


「ねえ、高氏くん」


隣にいる先輩が呼ぶ。


ぼっーとしたまま先輩についていたら、よく分からない、街灯があまりない、暗い道にいた。


先輩は、僕が振りむくと


「上を見て」


と言った。

僕は、その言葉に従う。


そこには……


「綺麗でしょ?」


瞬き、駆け抜け、そして淡く消える光たちがあった。


そういえば今日は何年かに1回の流星群が見える日だったな。名前は忘れたけど。


「さっきの道だと明るすぎて、見えづらいから、遠回りしちゃったけど……大丈夫かな?」


「もちろん大丈夫ですよ」


「ありがとう。高氏くんにも見せることができて嬉しいよ」


先輩は、朗らかな表情をして、空を見上げる。

その瞳は、流星群よりも輝き、流星群のように儚く消えることがない。


「ねえ、高氏くん。高氏くんは、何か欲しいものある?」


「欲しいものですか……とりあえず、セカイ以外ですかね」


「ハハ、笑えないよ」


2人して苦笑いする。


「私はね、この星空が欲しいの。いつも、どんなときでも、輝いて楽しそうなこの星たちがね。そんな小学生みたいなこと思ってるの」


先輩は、手を空にかざす。


「でもね、こうやっても届くことなんてできないし、あっちからやってくることもない。あまりに遠すぎて、逆に憧れちゃうんだ」


先輩の言葉のひとつひとつが、先輩が僕とは視点が違うことを証明する。


この人は、僕と同じ景色を見ていて、僕とは全く違う景色が見えるのだ。


少しでも多くの望みを求める彼女。


望みが少ないならいっそのこと全て断ち切る僕。


遥か彼方の輝きを求める彼女。


すぐ隣にいる輝きに近づくこともできない僕。


正直、彼女のそういうところに、僕は憧れるのだ。人としても、男としても。


「そういえば、欲しいものありました」


「何?」


「一日三食のごはんです」


だからといって僕は彼女のようになろうとするほどの欲すらない。


僕は生きるための食事があれば十分なのだ。













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