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夢現③

ズズズズ……。

緊張で喉が乾いたのか、先輩はお茶を飲んだ。

たしかに、人の、ましてや武士の家に来ることなどそうそうないだろう。


兄さんは、僕の左隣に彼女を座らせ、彼女の左隣に同じ高校の直義の椅子を置いた。


そうやって、関係が近い人を近くに座らせることで彼女をリラックスさせようとしているのだろう。


この人は、考えてないようで、意外にもいろいろ考えるからな。


そして、兄さんは僕の右隣に座った。


たぶん、僕のサポートをしやすいようにだろう。

ということは、僕は必然的に特攻しなければいけない状況に陥ったのか……。


「先輩って、今どこに住んでいるんですか?」


仕方ない。前回みたいに、変な空気になるのは嫌だから、今回は攻めてみた。


「下野国」


「え? 同じ国だったんですか?」


「そうだよ。ここから歩いてすぐのところに、長屋があるでしょ? そこに住んでるの」


「マジですか! そんなに近かったなんて……。家族とは?」


「父と母がいるね。一応、長屋の大家をやっているんで、人よりは豊かに暮らしていけてるよ」


「そうなんですか……」


たしかに電子ピアノを持つことができるんだから、別に貧しい家ではなさそうだ。

まず、この領地は、父さんと兄さんが平民のことも思いやって政治をしているから、この上なく貧しい人々は少ないはずだ。


「ここは税金があまりとられないんで本当に足利家の方々には感謝しています。ありがとうございます」


先輩は深々と頭を下げた。


「先輩、そんなのやめてください!」


「そうですよ。私たちがあなたたちの生活を考えるのは当然です。そんなにかしこまらなくてもいいですよ」


兄さんは、笑顔で先輩をなだめる。

まあ、実際に政治をしているのは、この中で兄さんだけだからな……。


「いえいえ、そんな! 中には税金が重いところもありますし……」


「あー、新田とか新田とか新田とかですね」


と、直義。


「いえ……あの……そうとは言ってな……」


「大丈夫です。あなたが言わなくてもわかります。あの、自分のことをエリートだと思い込み、自意識過剰で、無駄に、意味なく、過剰なほどプライドが高いナルシストがいる家が、人々の暮らしを脅かしていることぐらい承知してます」


お前は、どれだけ義貞が嫌いなんだよ……。


「すみません。こいつ、義貞のことが嫌いで……」


「そうなんだね。この間も、演習で喧嘩してたもんね」


「そうなんですよ。そのせいで僕も加賀に呼ばれ……」


あっ、まずい。止めに入ったことは内緒にしておくんだった!


「加賀さんに呼ばれてどうしたんだ? 兄貴」


どうしよう? なんて答えればいいんだ?


「そういえば高氏くんは、加賀になんで呼ばれたの?」


先輩! 追い打ちかけないで!


えーと、あーと……。


ダメだ! 頭の中が真っ白になってきた……。


仕方ない、白状するか……。


さらば、僕の灰色だが充実した平和。


僕は、これから僕は様々な人の視線の矢を放たれ、刺殺ならぬ、視殺されるだろう。


「実は……あのと……」


「加賀ちゃんのことだから、そうやって授業が止まったのを利用して、高氏がサボってるのを捕まえに来たのではないか?」


突然、真面目モードの兄さんが言い始めた。


「でも、加賀さんは兄貴とはクラスが違うぞ。彼女は、俺と同じSクラス。兄貴は、ヴァサラの不良のせいでF成績の悪いFクラスになっちゃったじゃねーか」


そういえば、僕がFクラスになったとき、「いや! 兄ちゃんがFなんて絶対おかしい! そのヴァサラが間違ってるんだ!」と、まだ中学生の直義がずっと言っていたな。


まさか、それが本当になるとは……。


「何言っているんだ。加賀ちゃんは、結構面倒見のいい子だぞ。たとえ別のクラスでも仲の良い高氏がサボってることに耐えられなかったのだろう」


「たしかに、あの人は、姐御肌だよな」


よくわからないが、兄さんの説得力のある発言に僕は救われた。


この人は、僕の味方か敵か本当にわからないな……。


「そういうことだろう? 高氏」


「まあ、だいたいそういうことだよ。流石、兄さんの推理力には驚くよ」


(お前、絶対そう思ってないだろう)


兄さんの目がそう語ったように思えた。


「ん? っていうことは、その保健室に局さんもいたってことですか?」


直義は、局先輩に問いかける。


「そうですけど」


「あの日って、武士はヴァサラ演習でしたけど、平民はそのまんま帰宅ではありませんでしたっけ?」


そういえば……そうだった気がする……。


加賀と昼飯を屋上で食べているとき、校門に向かって行く人を何人も見かけた。


きっとあの人たちが平民の人たちだろう。


「あの日は……少し具合悪かったので、具合が良くなってから帰ろうかと……」


「体、弱いんですか?」


心配になって、僕は聞いた。


「たまたまその日具合が悪かっただけだから、心配しないで」


彼女は、自分の胸元で手のひら僕に向けながら、言った。


「そうですか……なら、いいですけど」


僕は安堵して、胸を撫で下ろした。

彼女が体調不良であれば、それなのにわざわざここに来てもらったことを悪く思ってしまう。


ん? そういえば……


「そういえば、なんで先輩は僕の家を訪ねて来たんですか?」


絶対、最初に聞くべきだったことを僕たちは聞き忘れた。


さあ、閑話休題。

本題に入ろう。
















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