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後継者

「君は何になりたいの?」


「お兄ちゃんみたいになりたい!」


「君の憧れは誰?」


「お兄ちゃん!」


「君が好きな人は?」


「お兄ちゃん!」


 僕はなんでか分からないが、そういった質問をしてしまった。


 ほんの雑談のつもりだったのかもしれない。


 この質問に意図があったのかもしれない。


 自分の口が言ったことなのに、考えても、答えは出なかった。


 そもそも。僕はなんでこの男の子とここにいるのだろう?


 それすらも分からない。


 端の見えない暗闇の空間。


 温度もにおいも何も感じない。


 その空間そのものが「謎」を具体化しているようだった。


 幻影のような状況に僕は戸惑いを隠せない。


 もしかしたら、その恐怖を紛らわせるために、質問したのかもしれない。


 でも、彼はいつも同じように「お兄ちゃん」と答えた。


 彼の応答で分かったことは、彼がお兄ちゃんが好きってことだ。


 僕と同じように。


「お兄ちゃんが好きなんだね」


 と聞くと、彼は笑顔で「うん!」と答えた。無邪気な顔はまだ不幸を知っていなかった。


 希望や夢といったものが、彼の目の先には見えているのだろう。


 それが羨ましくあった。


 こんな笑顔をしたのはいつ頃だろう?


 鏡を見る度に、僕の目の光は段々と閉ざされていくように感じる。


 顔色も悪くなっている気がしてきた。


 体調不良でもない。何かの病を患っわけでもない。


 ただ心が蝕まれ、それが体に「首が絞めつけられている」ような症状を及ぼした。


 そのせいで、食事を口に運ぶ回数も減り、大好物の局さんの料理の味ですら感じなくなってきた。



 なんでこうなったんだっけ?



「覚えてないの?」


 男の子が僕に問いかけてくる。


 心が読まれたことに驚いたが、彼の顔をよく見ると、謎は解決した。


 そうだ。忘れていた。


 この笑顔はずっと失っていた僕のもの。


 そう、間違いない。


 彼は幼いころの僕なのだ。


「お兄ちゃんは死んじゃったんだよ」


 その言葉に突き放され、僕の意識は遠く遠く、遥か彼方まで飛んで行った。


 


 



 


















 







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