アヤマリ⑥
僕は言葉を続ける。
「僕は、今、人を殺めてしまった。
自分の意思で、自分の手で。
それは、正真正銘の人殺しだ。
そんな僕は汚れている。
真っ白なあなたを僕は汚したくないんです」
そう言ってる間も、僕は下にうつむいたままだ。
局さんはどんな表情をしているのだろう?
怒ってるかな? 悲しんでるかな? 戸惑ってるかな?
気になるが、それを知るのが怖い、死ぬほど怖い。だから、こうしてうつむいている。
そして、彼女の顔の代わりに見えるのは、震えた足であった。
僕は彼女を汚したくない、守りたい、幸せにしたい。そのためだ、『仕方ない』。
空気の重さに耐えられなくなった僕は、彼女の脇をすり抜けようとする。
怖がりな僕はついには目を閉じた。
一歩が重く、時間が長く、体が冷たく感じた。
すると手首が温かさに包まれた。
目を開けると、局さんが僕の左手首を握っていた。
彼女の顔は、うつむいて長い髪が横顔を隠しているせいでよく見えない。
「局さん……?」
ぎゅっと、さらに強い力で手首を握られる。
そのとき、風が吹いて、彼女の髪をなびかせた。
その中には、赤く、尖った目が隠れていた。
「バカッ!!!」
今度は口を尖らせる彼女。
その罵声は、僕の耳を通って、頭の中で反響した。
もしかしたら、僕は初めて彼女の罵声を聞いたかもしれない。
「高氏くんが汚れていても私は気にしないし、私が汚れても別にいい。
正直、恋人ってどんな存在なのか、よく分かってない。
でも、私は、高氏くんが喜んでいるときに、その姿を隣で微笑みながら見ていたいし、苦しんでいるときはその苦しみを分かち合いたい。
そして、高氏くんがそうやって過ちを起こしたのなら、一緒にそれを償って生きたい。
そうやって、何があっても近くにいるのが、恋人なんじゃないのかな?」
彼女は僕と向かい合って、僕の両手首をそれぞれ握る。
それを顔の高さまで持っていって、彼女の両頬にそれぞれの手を当てた。
「私はこうやって高氏くんを感じられるだけで十分なんだよ。
それ以上のことは、望まない。
だって、私が望んでいるのは、高氏くんなんだもん」
彼女の涙が目からこぼれて、頬を伝い、僕の手ぶつかる。
そうか……。知らぬ間に、僕は局さんにも迷惑をかけていたのか。
正成くんの言う通り、本当に僕は鈍感なんだな。
僕は親指で、彼女の涙をぬぐった。
「すみません。寂しがらせることを言ってしまって……。
僕も局さんと近くにいるだけで満足です。
何も望んでいません。
あなたとずっと一緒にいたいです」
そう想いを告げると、やっと彼女から微笑みがこぼれた。
その笑顔はやはり美しく、僕の一番の癒しであった。
それをずっと見ていたかったが、できなかった。
救護班の方が全力疾走をして、僕のところに向かってきて、こう言ったのだ。
「高氏さん! 早く来てください!! 高義さんがッ!!!!」