出会い
僕、足利高氏は、彼女、越前局と出会い、劣等感だらけの灰色の日常が徐々に、華やかな色に変わっていく。
そんな青春が、ずっと続くと思ったのに……。
つまらない日々を送っていた。
何がつまらないのかというと、ほとんどすべてだ。
勉強、ゲーム、本、先生、友達、家族。
すぐ思いつくのは、これらだろう。
勉強は嫌いだ。別にそれは僕が苦手だからというわけではない。
僕は、この国の最高機関である「鎌倉幕府」が作った、この国ナンバーワンの学校、鶴岡高校に通っている。
その中でも僕は上位の成績を誇っている。
まあ、上位と言っても、同学年が三百人いて、その内の九十七番目だが。
言葉通りに、必死に勉強したところで、人の能力というのは限られているのだ。
目の前の壁がすべて壊せるわけではない。
しかし、中にはすべて壊してしまう、壊せてしまう人がいるのだ。
それが僕の弟、直義だ。あいつは、僕と一つしか歳が離れていないが、すでに飛び級で僕と同じ二年生で、しかも、学年一位の成績を誇っている。
さらに身長は僕より頭一つ大きく、クラス対抗のスポーツ大会でも活躍している。
まさに文武両道。男子からは憧れの目を、女子からは好意の目を向けられている。
今や、この学校の顔の一人になっている。
さらに、僕には、もう一人劣等感を抱かせる人物がいる。
それは僕の兄、高義である。
彼は足利家次期当主であり、僕や弟よりも能力が高い。
鶴岡高校時代、彼は、もちろん勉学、スポーツ共にトップで、さらに生徒会長として、生徒たちから尊敬と畏敬の念を抱かれていた。
そして、高校卒業後、大学進学をやめ、足利次期当主ということで政治に参加している。
たとえ、僕が、周りの皆からみたら、家柄も良く、能力の高いエリートだとしても、彼ら二人に勝てない。勝てるわけがない。
なのに、父からは、最も期待され、「兄に追いつけ、弟に抜かれぬな」と言われ続けた。
僕も父の期待に応えようと努力した。
寝る間を惜しんで勉強し、体を鍛えた。
しかし、兄に追いつけず、弟にはすぐに抜かれた。
それからの僕はカラッポだ。
ただ勉強し……ただ筋トレをし……ただ生きている……。
僕は、昔、水族館で見たクラゲを思い出した。
クラゲには脳がなく、だから意志があるとは考えられていないらしい。
ただ餌を食べ……ただ分裂し……ただ死を待つ。
子どもながら僕は「そんな生涯、楽しいのか?」と疑問に思った。
でも同時に、クラゲが泳いでいる姿が可憐で、綺麗で、気持ちよさそうだった。
その姿は、まるで今の僕だった。
そんなつまらない日常の一部にある授業を終わらせたところで、教科書やら筆箱やらをリュックにしまって、それを背負い昇降口に向かった。
その途中、廊下を歩いていると、どこからか音が聞こえてきた。
それは美しく、清々しく、麗々しいが、どこか悲しげな雰囲気を帯びていた。
音のする方向に行くと、そこは誰にも使われていない空き教室だった。
そこには、電子ピアノを引いていた、女の子がいた。