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98、人外たち、海に行く


「ハルカサーン。狩りに行こうぜ」


「むぅ。今日はダメ。ハルカは私と海に行くの」


「「OHー」」


王都からフェルムスティアに帰還して数日が過ぎた。何時ものようにハルカを狩りに誘いに来たジョンとガルガンサは、ケモミミ少女 シェアラに撃退された。


ただし、それで彼らが諦めた訳では無い。

むしろ 彼らも海に行く事が決定したようなものである。


今や精霊樹の都とも言えるフェルムスティアに帰ってきたハルカは、何故か とても忙しい日々を送っていた。


シシルニアの父親がハルニア商会を立ち上げたのでその流れで、フルベーユ商会の会頭ラルドアス・フルベーユに紹介して業務提携を結ぶ手伝いまでしていた。

新参者の商会とはいえ、事実上ハルカが作った商会のようなものだ。

ハルカが手に入れた素材の多くが取り扱われる事は明らかであり、大店と言えるフルベーユ商会ですら無視できない存在なのだった。

その為 小さいながらも対等な取引相手として扱われる事となる。

それは 長い時間をかけて作り上げた信用がものを言う商人の世界では 有り得ないほど異例な事である。


潤沢な資金と 激レアなアイテム袋を持つハルニア商会は、後に 隣国サラスティア王国との交易によって 類を見ない急成長を遂げる事になる。

後に自分の判断が間違いでは無かったことに ラルドアスは心底安堵するのだった。


ハルカは他にも、冒険者ギルドの新館が完成まじかとなり、ハルカが望んでいた家について棟梁と打ち合わせする時間も多くなる。また、それとは別に大所帯となったハルカチームは大きめの家を借りて住む事になった。

大喜びの女性陣がハルカを生活用品の買いだしに連れ出し、引きずり回した。


ゴロゴロ生活が夢と消えていくハルカだった。



他にも、強くなりたいシェアラとシシルニアが 剣の鍛錬をするだけでは気が済まず、実戦で鍛えるために狩りに行きたいと言い出して それに付き合う事となる。


とにかく ハルカは多忙な日々を送っていた。




今日は 以前からシェアラと約束していた海に行ってサカナを獲る日なのだ。

参加する事となったジョンのチームと合わせれば ハルカを抜かしても6人となり、二度に分けて海まで運ぶ事となる。


最初に運ぶのは、現地で何が出てきても対処できる強さを持つ ジョンのチーム。

男2人と リリシアさん(ガルガンサの彼女)の3人でパーティを組んでいる。

ファイター2人に斥候1人という変なチームだが、男2人が人外な強さを持つため何の問題も無いらしい。これに魔法使いのハルカが加わると正に敵無しである。


ハルカがチームに加わると食べ物の心配も無いし、仮設のトイレまで用意できる。

ましてハルカは近くに居るだけで心の癒しにもなる。

ハルカの気も知らず、ジョン達は 毎日のように狩りに誘いに来ていた。


4人乗りで森の上を飛んでいくのだが以外にもジョンが高所恐怖症らしく、恐がってやたらと(うるさ)い。

そのため声に引かれて飛んで来た虫の魔物をピアが出てきて迎撃する破目になった。



全員が海に到着すると、海を見た事が無いシェアラとリリシアさんが感激している。


「ジョン、コレ使ってみて」


ハルカがジョンに手渡したのは丈夫なロープで、先端に釣り針のような金具が付いている。高い所に登る為の特殊な冒険用のアイテムである。戦争が起こると城壁を登る為の道具に使われるらしい。


そんな微妙な用途のアイテムで釣りをする気なのだ。

超人的な怪力のジョンにしか出来ないだろう荒業である。

早速巨大なフナムシをエサにして海に投下していく。

ロープがそれほど長くは無いので海岸に糸を垂らしたようなものでしかない。

しかし全くの手付かずな海であるため、魚影も濃く、魚もスレていない。

いきなり飛び上がって食いついてきた。


クジラほどもある巨大なサカナが飛び上がった事でシェアラ達はビビッて後ろに逃げた。


「うおおおおーーーーっっ」


空母の上から釣りをした あのアニメのように、岩場に足をかけて踏ん張っているジョンとサカナの綱引きが始まった。

だがしかし、この世界のロープの強度は知れている。

アッサリと切れてしまった。


「あー・・やっぱダメかー」


「あの大きさだとカジキ用のワイヤーでも切れるぞ」


「えっと・・ハルカ、サカナを獲りたいのかな?」


「うん・・何か良い方法有るの?マウ」


「生け捕りじゃないなら簡単だと思うよ」


「「「えっ」」」


マウこと大賢者マウラの提案を聞いたハルカ達はその方法の単純な事に目から鱗が落ちる思いを味わった。



「じゃあ、ハルカサーン、いきますよ」


「ん」


ジョンは巨大フナムシを軽く海に投げた。

放物線を描いて海面に近づくフナムシは 空中で飛び上がったサカナに食われた。そのサカナの頭には三本のアイスランスが打ち込まれ海中に落ちていく。

少しして死んだサカナがハルカの倉庫に自動回収されていた。


ハルカとジョンは釣りに(こだわ)って思考が臨機応変に出来なかったのだ。

それに気が付いて二人は苦笑いするしかない。


同じ方法で何匹か手に入れハルカ達は 海岸から離れた丘でサカナを焼く事にした。


最初は 海岸でサカナを解体して食べようとしたのだが、サカナの腸や血に誘われて巨大なカニやヤドカリ、そしてフナムシなどがワラワラと集まって来たために落ち着けない。

勿論カニはキッチリ倒して獲物として保管された。



焚き火の上に以前も使った石のプレートを渡してさらに魔法で加熱しその上に食材を乗せて石焼にする。

手ごろな大きさに切ったサカナの身やカニ、ツブ貝など海の幸を焼いていく。

全く汚染されていない自然な海であり味付けは海の塩味が最高だった。


近くに生い茂っている巨大な葉を使って蒸し焼きもしたのだが、その葉は見た目は違うが香りがシナモンと同じだった。ある意味、大発見である。


調子が出てきたジョンとガルガンサは酒が飲みたくなってハルカに強請(ねだ)ってきた。

ハルカが取り出したのは日本の清酒。

亜空間倉庫には色々なお酒が収納されているがサカナに合うのは日本酒だろうと自分の趣味で決めた。


何時もはハルカの肩の上に乗っているノロだが、食べるときは降りて食べる。この時もシェアラやマウラたち女性陣と一緒に楽しそうに食べていた。


なので、男組みが酒盛りをしている事に気が付かなかった。



「あれっ、何か魔力の流れが激しいようにゃ気が・・」


「へへへへへー、いくぞーー。かめ○めはーーーーっ」


「にゃ?。あーーーー大変にゃ」


ノロが気付いた時には既にハルカはすっかり出来上がっていた。


そして・・。


グォッゴゴゴゴゴゴーーーーーッッッッッッ☆


ハルカは超有名なアニメの技を再現した魔法をぶっぱなした後だった。


道が出来た。

凶悪な魔物が徘徊するとして冒険者たちが足を踏み入れなかった森に幅50メートル、長さはまだ確認出来ないほど長い道が出来てしまった。

しかも、地表は火山のようにグツグツと赤く溶けていて冷えたら石のようになるだろう。

いずれは森が侵食するであろうが何十年かかるか分からない状態である。


これには、面白がってハルカを(けしか)けていた大男2人も呆気にとられ酔いが吹っ飛んでしまった。


「あははははは。まいったか、ベジ○タ」ヒクッ


「た、大変にゃ。町は大丈夫なのかにゃ」


『危ナカッタナ。精霊ノ湖ノ横ヲ通過シテオル。

湖ヲ消シ飛バシタラ、ア奴ニ何ヲ言ワレタコトカ・・』ブルッ


ピアを守護している上位の精霊が怯えているのは魔法に対してか、それとも湖の精霊に対してなのか。



「おい・・、てことは、この焼け跡は森を突っ切ったのか?」


「バカタレ、ハルカに酒を飲ますなんて、世界を滅ぼす気かにゃー」


「よーし、次はデンキ玉だーーーっ」ヒクッ


見ると腕を上に向けて魔法を構築しているハルカがいる。

上空には直径が3メートルにもなる巨大な光の玉が浮いていた。


「「「「「「!!」」」」」」


「あれはマズイにゃ。止めるにゃー」


ガルガンサがハルカにタックルしたことで、森にゲンキ○ならぬデンキ玉が落ちるのは回避された。


その代わり海に落ちたソレは海岸を(えぐ)り、入り江を作ってしまった。巨大な電気のかたまりを落とされた海は、半径百メートルに居た魚介類を全滅させ、亜空間倉庫に獲物として収納されている。自動で収納するだけで膨大な魔力を消費したハルカはそれで疲れたのか、そのまま熟睡してしまった。それは幸運だったと言える。


今も海は大きなうねりが収まらず海岸線は水浸しになっていた。

もしも 丘の上に居なければ高波に飲まれてハルカ達も全滅していたかも知れない。


気持ち良さそうに寝てしまったハルカを見ながら ジョンはこの世界に来て初めて死の恐怖を味わった。

酔っ払って適当に撃った魔法で、森も海も景色が変ってしまったのだ。


「ジョンの兄貴。ハルカの前で酒を飲むのは止めようぜ」


「ああ・・」


ハルカが すっかり熟睡しているため飛んで帰る事もできず、また 酔いが醒めないうちに無理に起しすのも危ない。


困った一同が疲れて座っていると、精霊王のピアが仲間を集めて雨を森に降らせ 時間はかかったが 道を冷やして歩けるようにしてくれた。

ハルカを背負ったジョン達は3時間も歩いて帰る破目になってしまった。



この後、フェルムスティアは大騒ぎになった。

念願である海に通じる道がいきなり出来てしまったからだ。


その経済効果は計り知れず、海だけでなく 森の深部に楽に行ける事で採取される素材も多種多様となり、中には幻と言われるような物まで見つかっていた。

しばらくは好景気に湧く事だろう。


事の顛末を聞いたギルドマスターのフェレットは頭を抱え、道が出来た経緯を隠蔽した。

やっと完成した新しい冒険者ギルド会館は初日から大忙しで 手が回らず、他の町からも職員を派遣して貰うらしい。



こうして王国で唯一の海岸線を持つ事となったフェルムスティアは今まで以上に大きな都に発展していくのだった。





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