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92、フレナルの受難

あけまして おめでとうございます。今年もよろしく。

そこは一見 普通の部屋に見える。

だが、間違いなく幽閉する為の監禁部屋だ。

窓は無く、入り口のドアの前には鉄格子のドアが備え付けられている。


シシルニアは目を覚ますと あたりを見回し、しばらくは状況が飲み込めず呆けてしまった。

近くには仲間になった獣人の子 シェアラが 今もベッドで寝ている。


(えっと・・。知らない部屋だね)


彼女には自分が何故そこに居るのか、その過程が全く分からない。

それもそのはずで、二人を攫ってきたのは裏社会で誘拐専門の仕事を請け負うプロなのだ。

証拠を残さないのは勿論、誰にも姿を見せずに仕事をこなす事を美学としている。


状況は分からないが ただ事では無い事は間違いない。

ひと先ず シェアラを目覚めさせて警戒する事にした。


「んあ、シシル?。朝なの・・」


シシルニアと同様にシェアラも自分の状況が分からずに まだ寝ぼけている。

しかし、2人共 ハルカの下で色々なアクシデントを経験していた事もあり、冷静に今の状況を考える度胸が付いていた。


自分の体の確認に始まり、利用できそうな物の把握、そして現状を知るためのヒントを探すなど、子供としては少し異常なほどの対応力を見せている。


しばらくするとドアが開かれ、鉄格子の下の開口部から食事が差し出された。


「えっ、リルナンドさん?。どういう事」


「お久しぶりですね、シシルニア。しばらくは此処で我慢して下さい」


その男は ヴェルマルタ商会の会頭ボボスに影の如く付き従っている執事である。


「貴方が居るという事は、ここはヴェルマルタ商会なのね。父と母に酷い事したくせに 今度は私を攫ったわけ?。いい加減にしないと泣きを見るわよ」


「そうですね。貴方の友達のご令嬢が来れば話は終わるでしょう。それまでの辛抱です」


「なっ、狙いはハルカなのね。そんな事させないわ」


シシルニアがドアに駆け寄る前に ドアは閉ざされてしまった。



「シシル、大丈夫だよ。ハルカが助けてくれるよ」


シェアラはハルカに絶対的な信頼を持っている。

シシルニアもその点は同じなのだが、同時にヴェルマルタ商会の暗部の事も良く知っている。裏では手段を選ばない凶悪な犯罪組織である事を考えると 不安を消し去る事など出来なかった。




その頃、ハルカ達3人は王都の入り口に到着していた。

さすがに王都に空から侵入したのでは大問題であり言い訳が立たない。


特段問題も無く門を通過したハルカだが、この時 様々な種類の人間が情報を伝えるべく駆け出していた事は気が付かなかった。


先にシシルニアの母親を迎えるべく、ルクライアス王都別邸に向かう事になる。

フレナルが とても一人では帰れない自爆をしているため 彼女を援護する意味もあったりする。

とは言え、貴族邸の立ち並ぶ区域までは距離が有り、テクテク歩くには時間がかかるだろう。そう思っていると、前方から馬車が向かってくる。


「お嬢様、お迎えに上がりました。御館様がお待ちです」


「・・分かったわ。ハルカ、丁度良いから乗って行きますわよ」


到着早々、馬車が迎えに来た・・それは当然 領主が娘を心配して迎えを差し向けたのだが、同時に 早く顔を合わせたいほど激怒している事を物語っている。

予想していた事とは言え、深くため息の出るフレナルだった。


馬車が走り去った後には、先を越されてしまった者達が悔しそうに見送っていた。



馬車には御車の他に執事らしき老人と護衛の騎士も乗り込んでいる。

ハルカたち3人は 並んでその向かい側に座った。


「出迎え、助かりましたわ。お父様は さぞお怒りでしょうね・・」


「恐らく・・・。  

・・・・ですが 我々を迎えに送り出したのは奥様にございます」


「ひっ!」


それまでは貴族の令嬢らしく悠然と構えていたフレナルが急にオロオロしだした。

見ていて分かるほどに手が震えている。

奥様と執事が呼ぶということはフレナルの母親なのだろう。


馬車は30分ほど走ると貴族の邸宅が並ぶ区画に入り、程なくルクライアス領主の王都別邸にたどり着く。


門から玄関まで広い敷地にメイド達が並んで出迎えていた。

その中央には 母親らしき人がシンプルながら作りの良いドレス姿で立っている。

母親と聞いて無ければ フレナルの姉と呼んでも不思議ではないほど若々しく見えた。


フレナルは その姿を見た途端、思わず自分より小さなハルカの陰に隠れようとしていた。


「お帰りなさい。フレナル」


「は、はひっ。た、ただいま戻りますた」


ボロボロである。


「こちらの方がハルカ殿ですね。始めまして。フレナルの母で フレデリアともうします。この度はバカな娘の我が侭に力を貸して下さったとの事、その依頼が命に係わる事であったなど お詫びの申しようもありませんわ」


「はじめまして。今回のフレナルの判断は正解だった・・。叱らない方が良い」


「あらあら、優しいのね。魔法書簡が届いてますから事情はだいたい分かっています。・・ですが、年頃の貴族の娘が 殿方と2人きりで遠出をするなど言語道断。

ドラゴンごとき些事など問題ではないのです」


「「ええーっ!」」


ハルカとマウラは ドラゴンを「ちっぽけな事」と言ってしまう貴族社会の常識に驚いた。貴族にとって醜聞はドラゴンよりも恐ろしいと言っているのだ。


「お客様を丁重に案内しなさい。それから、フレナルには話が有ります。私と一緒にいらっしゃい」


「はい・・・・・・・」


結果だけ見れば、フレナルの暴走はルクライアスを救った大英断なのだが、夫人の怒りは全く別の次元の話であり、連行されるフレナルが哀れに見えても ハルカには助ける為のカードが全く無かった。



豪華な応接室に通されたハルカ達は 国で最高の品であろうお茶とお菓子で持て成しを受けていた。早くシェアラ達と合流したいが、シシルニアの母親を連れて行かないと話しにならない。


しばらくして、ルクライアス領主フレンコムが焦った顔を隠せないまま部屋に入って来た。後ろには先ほどの執事が控えている。

どうやら フレナルから詳しい事情を聞いて青くなっているようだ。


「娘から事情は聞いた。君の命を危険に晒すような要請をした事、真に申し訳ない。フランベルト殿には事情を説明しておいた。この事の裁量は君に一任すると言われている。ハルカ殿の要望は出来うる限り適えるつもりだ」


ハルカが単なる冒険者であれば、ご苦労の言葉と それなりの褒章を出せば何も問題は無い。しかし、ハルカはフェルムスティアの筆頭魔導師の肩書きを持つ。


「望むのはシシルの母親だけ。

それとドラゴンは正気を失って暴れていたから、フレナルの判断は正しかった。

退治しないと大変な事になっていたと思う」


「えっ、・・・まさか、アレを退治?。いや、そんな」


「コレはあのドラゴンのウロコ。他の素材は大きいからここでは出さない。記念に素材のいくつかはフレナルに渡してあるよ」


「おおっ!、   おおお。本当に、素晴らしい。アレを退治することが出来たとは、これほどメデタイ事は無い。ハルカ殿 ありがとう。本当にありがとう」


どうやらフレンコムは ハルカを危険なめに遭わせた事だけでオロオロ悩んでいたらしい。よもや 倒したなど予想もしていなかったようだ。


「しかし、良いのか?。ドラゴンの素材は大変な宝だぞ。こちらが礼をせねばならぬのに、そんな宝まで貰っては立つ瀬が無いのだがな」


「気にしなくて良い。それより、コレに比べたら ドラゴンの素材なんて微々たる物でしか無いと思う」


ハルカはドラゴンの巣で見つけた一番の宝を取り出した。


「ん・・?。これは石ではないか。 ・・・・いや、これは鉱石ですな。しかも単なる鉱石ではない・・か」


「それはミスリルの鉱石。ドラゴンの巣の中にはミスリルの鉱脈が有る。おめでとう、発見できたのはフレナルのおかげだね」


「「!」」


まさに驚天動地の情報である。

ファンタジーものの定番、ミスリルという名の金属。

この世界でも存在は確認されている。

しかし、ご他聞にもれず、その産出量は極めて少ない。


恐らく、数百年もの間 ドラゴンの魔石が小さくなるほどの魔力が放出され続けて 地層がミスリルに変化したのかも知れないとハルカは予想していた。ただし、人の寿命で そんな年月を検証実験する事など出来ないので、永遠に予測のままで終わるだろう。

ともあれ、金の鉱脈より はるかに貴重な地下資源が自分の領地に見つかったフレンコムは舞い上がってしまって暫くは話にならない。下手をすると王都の行事など投げ捨てて「今直ぐ帰る」と言いかねないテンションである。


そんな領主に慣れているのか、執事は慌てる事無く 2人の人間をハルカの前に連れてきた。一人は優しそうなメイド姿の女性で 目的の母親だろう。

もう一人 一緒に来た男は 奴隷契約を書き換えるために手配していた商人らしい。


思いがけず苦労はしたが、これで シシルニアの両親を無事に確保する事ができた。



何とか正月三が日の内に投稿できた。

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