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91、男になりました

々を安心させることに成功した領主の娘フレナルは 侍女のリリエラを伴って改めてハルカに礼を言いに来た。


「ハルカさん、この度はドラゴンの討伐 感謝いたしますわ。報酬がメイド一人ではとても割に合いませんね」


「左様でございますね。ドラゴン退治の条件が 奴隷メイドの譲渡と聞いたときは、あまりな横暴に呆れてしまいました。とは言え、どのような事をしても 偉業に見合うだけの報酬にはなりません。

そこで、殿方であるハルカ様が 最も喜ばれるであろう事をさせていただきます」


「えっと・・・どういう事?」


ハルカが一番喜ぶ事?。ハルカ自身にもわかりません。


「領主の娘である私自ら、ハルカさんを男にしてさしあげますわ。こちらに来てください」


一息でそう言うなり フレナルはハルカの手を取って走り出した。

興奮しているのか、ほんのりと顔が赤い。


「ええーーっ。ちょっとまって!。ハルカの最初は私のものだよー」


お嬢様が突然の行動に出たため、あわてたマウラは思わず願望が口から出ている。

Hな意味でのハルカの最初なら とっくの昔に終わっているのだが、この世界では誰も知らない。



バタン☆



豪華な作りのドアにハルカを連れ込んだフレナルは中から閉めてしまった。入り口には侍女のリリエラが陣取り 何者も通さない鉄壁の守りに付く。マウラでは とてもその防御を打ち破る事はできない。


それから 一時間ほどしてドアが開かれた。


「!。えっ、ハルカ?」


マウラは「最初だから早く終わったのか」と下世話な考えを持ったが、ドアから出てきたハルカを見て固まった。


腰まで有った長い黒髪はベリーショートの男らしい髪型に、服装もハルカにピッタリなオーダーメイドの男らしいものに変っていた。


その姿に見蕩れて言葉を無くすマウラである。


ハルカの願望はここに実現した。


ただし、一夜限りの儚い幸せではある。


一眠りすれば 元のロングヘアーに戻っている事だろう。


ハルカはそれでも嬉しいのか、何度も鏡の前で自分を見ていた。

その様子に、普段は無表情なリリエラも 心なしか微笑んでいるように見える。

部屋から出てきた職人たちも自分の仕事に満足しているようだ。

ハルカにとって この上ないサプライズである。


「ありがとう、フレナル。最高の報酬だ」


「そう言っていただけると嬉しいですわ。お父様には『まだ足りない』と言われそうですけどね」


「それ以前に、お怒りあそばされます事を御覚悟なされませ」


「う・・そうでした。・・王都に戻るのが恐いですわ」


「そうだ、ドラゴンの巣で・・こんなの見つけた。これを見せれば多分ごまかせる」


ハルカが亜空間倉庫から取り出した物を見てフレナルは息を止めた。

リリエラですら驚き 目を細めている。


「ハルカさん、明日には王都に向かいましょう。成人の儀にも間に合います」


「分かった。二人乗りだからフレナルを先に送るよ。マウは少し待ってて」


「それには及びませんわ」ふふふっ


何やら 含みの有る笑顔のフレナルである。




次の朝、やはり髪の毛が元に戻っている事で皆に驚かれた。

現実逃避して考えたくないハルカは そんな反応を強引にスルーした。


「これ、何?」


「ハルカさんの杖に取り付ける3人用の座席ですわ」


「すごいねー。これなら私も一緒に乗って行けるよ」


「んー・・・・イメージが・・・・・」


「こちらに来るときに『空間ごと飛ぶから離れなければ落ちない』と聞きましたので、有る程度 固定すれば3人でも乗れますでしょう」


杖に皮のベルトで固定して延長された棒に 自転車のサドルみたいな座席が付いている。三人並んで横向きで座る形だ。ご丁寧に先頭の座席には手すりまで付いている。この都の職人はレベルが高いようだ。


朝食を食べた3人と一匹は王都に向けて飛び立った。



****************



その頃、王都スティルスティアでは 一人の男が部下を集めて喚き散らしていた。


「どういう事なのかね、諸君。肉の価格が大暴落です?、ふざけるなよ、何処に暴落させるだけの肉が有るというのだ。今まで都に入って来た商隊で 肉など運んで来た奴等は居なかったぞ」


「しかしながら・・現実に都の全域に肉が行き渡っております。しかも、我々の所有する肉よりも高価なはずのゴンゴロウやメルメルの肉が安く売られているようでして・・屋台ですら安く肉串を提供している始末です」


ヴェルマルタ商会の会頭ボボス・ヴェルマルタは 成人の儀 という大イベントを利用して大儲けをしようと色々と仕組んでいた。その一つが肉の価格操作である。


その目論見は 冒険者ギルドマスターの要請でハルカが大量に肉を放出したため 大失敗に終わろうとしている。


「しかし・・メルメルですか。最近聞く話でメルメルを狩った話は一つしか有りませんな」


「心当たりが有るのか?」


「私も噂を聞いただけで裏づけは有りませんが、先日 皇太子殿下が帰還された時に同行していた一行がメルメルの大群に襲われたらしいのです。

しかも その襲撃を冒険者が魔法の一撃で葬った、との話が伝えられております」


「はぁ?。あんなデカイ奴が大群で押し寄せて来て 無事にいられるはずないだろう。ガセだ」


「はい、私もここだけ聞いたときはそう思いましたが、途中の村が肉の提供を受けたとの話もございます。そして 同時期に膨大な量のメルメルの羊毛が市場に流れております。その点でも商会は少なくない損害を出してございます。関連は有るかと」


ボボスの不機嫌は益々険しさを増していく。

会議に参加している商人達は、『誰か雰囲気を変えるように』と お互いに目配せをして押し付けあっている。


「か 会頭、その皇太子が率いて来た一行に ラザルの娘が同行していたのです。

ですから 毛皮の提供者である令嬢もいたはず。無関係とは思えないのですが・・」


「またか・・。して、そのお嬢様の足取りは掴めたのか?」


「いえ・・、腕利きの冒険者に捜査をさせていますが、消えてしまったように姿を現しません」


勇気を振り絞って話題を変えた男は さらにボボスの機嫌を悪くしたようだ。



「しかしながら、ラザルの娘が同年代の獣人の少女と共に 王都の宿に滞在しているのも確認しております。両人共に令嬢と無関係とは思われません。必ずや接触してくるでしょう」


「・・・面白いな。その2人、丁重に御招待申し上げろ。御令嬢が現れなかったら、損害の埋め合わせに使わせてもらおう」


ボボスはシシルニアの両親を奴隷として売り飛ばした。

勿論、全くの他人がそんな事をする権利など この世界にも存在しない。

商会の傘下に違法な裏の奴隷商人組織が有る為に ありえない取引も成立していた。


そんな悪辣な手段を使っても自分が推し進めれば 失敗するとは微塵も思っていない男だった。そして 悪運が強いのか今まで罪に問われたことは無かった。


そう。今までは・・・


「ハルカに手を出す」この決定は 男が破滅に向かうジョーカーのカードだった。



*******************



三人乗りで空を飛ぶのは初めてだが、トラブルも無く快適であった。

景色を見ながらフレナルから領地の説明や自慢話を聞いて楽しむ。

来る時とは違い 彼女を追い詰めるストレスも無くなり、その声は広がる景色のように明るいものだった。

空間ごと飛行する感覚は飛行機の機内に居るようなもので話し声が普通に聞こえる。

各地を旅して来たマウラからは名前も知らない国の話が聞けた。


「ところでハルカ。結果的にシシルニアの両親を身受けした事に成るけど、この後どうする気にゃ」


「んー・・取り合えず、一緒にフェルムスティアに帰ろう」


ハルカ的には 「食べるものと寝る場所が有れば何とかなる」という日本に居た時の特殊な生活感が今も抜けていない。


ハルカには考えている事があった。

シェアラにしても シシルニアにしても 生きていくだけならハルカの側に居るだけで何の問題も無い。

ハルカの能力と財力を考えれば、ハーレムのように何人もの女性と生活しても 何も困る事は無いからだ。しかし それでは2人の能力と可能性が無駄になってしまう。


仲良くなった二人とはこの後も一緒に暮らしていきたい。

だからこそ 彼女達がそれぞれに生きて行く力を持った上で 共に生きて欲しいと願っている。

彼の視点は まるで子供を見守る親のようだ。




いよいよ 王都が見えてきた。

様々な立場と思惑と欲望が 一人の子供を待ち構えている。





見に来てくれて ありがとうございます。

良いお年を。

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