86、カルビオン
その後、マウラは名前を変えてハルカと同行する事に成った・・と言うか、意地でも付いてくる気でいる。と言う事で今の呼び名はマウにした。
一文字減らしただけの安直な名前の付け方だが、下手に大きく変えると名前を呼ばれても気付けなくて偽名なのがバレてしまう可能性が有る。
彼女の年齢は百歳より上らしく、正確には数えていないらしい。
ハルカが多少の事は気にしない性格だと知ったマウは自分の事を色々と語りだした。
「カルビオン?」
「ムグムグ・・簡単に言うとね、淫魔と人間の間に生まれたハーフの事よ。
ゴクッ・・ちょっとだけ恥ずかしいから他の人には言わないでね。ムグムグ」
ハルカ達は場所を移動して 見渡しの良い場所で食事をしていた。
ブルーシートを敷いて座り、まるで 公園にハイキングにでも来たかのようだ。
マウは「久しぶりに人間らしい食事だ」と言って 屋台の料理を次々に食べていく。ピアはフルーツゼリー、ノロは最近気に入った 裂きイカ をカミカミしている。
当初の目的を忘れているような のん気な風景である。
「淫魔と言うのは サキュバスやインキュバスなど、人間のHな欲望に付けこんで人を堕落させると言われている魔族にゃ。自分の気持ちがしっかりしていれば そんなに恐い相手ではない・・アムアム」
「あ、誤解しないでね。私はそんな事しないから・・ムグムグ。その証拠に 今も成長できずに子どものままだし・・モキュモキュ」
確かに 百年も子供のままでは人間社会では定住が出来ないだろう。
周りの人間達が必ず変に思うだろうし、素姓が知れたら何をされるか分からない。
見た目が子供だし 攫われて売り飛ばされるかも知れない。
まして、錬金術で有名に成ってしまった彼女は危険度が跳ね上がった事だろう。
無理してでも大人に成れば 人より強い存在になれたかも知れないのに、心優しい彼女は 欲望や力を追い求める事はせずに 人知れず孤独な旅をしていたのだ。
そんな時に 平然と有りのままの自分の存在を受け入れるハルカと出会ったマウの心境は押して知るべしである。
マウは女性なので 少しはサキュバスの能力も持っている可能性がある。
しかし、まだ ハルカを男の子と見破れない事を考えると 能力は低いと見るべきだ。
つまり 成長しないだけで人間と何も変らないのだ。
「マウ・・一緒に来るのは良いけど、今から行くところは領主の館だから その姿はマズイと思うにゃ」
「ほぇ、ハルカって権力者なの。それは困るかな・・」
「ハルカは平民にゃ。ただし、立場はマウ・・と一緒で複雑なのにゃ」
「なるほど・・私と一緒ね。うんうん♡」
ノロは「マウラ様」と呼んでしまうのを矯正させられていた。
せっかく隠している素姓を知られるのは困る。
ハルカの友達の旅の薬師見習いという事にして 他の人には紹介する予定だ。
「髪の毛・・整えて、服を着替えれば問題無いと思う」
「そうだにゃ・・ハルカの友達と言えば誰も文句言わないじゃろ」
「領主の館で文句を言われない・・ハルカって本当に複雑な立場なんだね」
マウの髪の色はオレンジに近いブラウン。
前髪も伸び放題なのでゲゲゲの妖怪みたいに髪の毛の間から目が見えている状態で、怪しさにブーストがかかっている。
ハルカが亜空間からハサミを取り出すとキラキラした目で喜んでいたが 放置して準備を進める。
野原の真ん中で散髪する と言っても専用の道具が有る訳でも無く、折りたたみイスに座らせて シーツで体をカバーし、普通のハサミでカットするので複雑な髪型など出来ない。
前髪を眉毛の上で切りそろえ、他はセミロングの長さでそろえる。
素人でも何とか形に出来る無難なスタイルにした。
それでもマウは素材が良いのか別人のように見える。
容姿もハルカの周りに居る少女たちとは違うタイプの可愛い顔をしている。
ほのかに色気まで有るところは血が成す宿業なのだろうか。
取り合えず人間らしくなったので ハルカの持ってるドレスを着せる事にした。
ドレスを纏ったマウは また一段と女子力が上がり、どこかのお嬢様にも見えた。
手持ちのドレスは失ったが、ハルカは 手付け金代わりに男の子の服を何着かもらっていたので問題ない。
とりあえず、ドラゴンの様子見は出来たので一度引き返す事にする。
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ルクライアスの本邸では 久しぶりの我が家で寛ぐフレナルお嬢様がお茶を楽しんでいた。側に控えているのはスーパー エージェント メイドのリリエラ。
フレナルは上機嫌なのに対しリリエラは何か硬い表情で考え事をしているようだ。
「お嬢様・・本当にあの子を行かせて良かったのでしょうか。いくら魔法に長けているとは言え小さな子供です。精神的に恐れては魔法も発動しないと聞きます」
「オークの上位種を簡単に倒した所を見せてあげたかったわ。私も魔法の競技会を見た事が有るけど、上位の魔法使いも魔術師もハルカの足元にも及ばないわ。
彼が無理なら この領地そのものを諦めるしか無いわね」
「左様でございますか。私もお嬢様の判断を信じとうございます。
この件は御領主様もご存知なのでございましょうから、余計な心配でございますね」
ギクッ「・・・・・」
饒舌に動いていたフレナルの口が急に押し黙っている。
それが何を意味するのか、リリエラでなくとも気が付く事だろう。
「ハルカ様はフェルムスティアの魔導師ですから、御館様なら先方の許可もいただいている事でしょうし、心配はいりませんね。もしも 許可無くお抱えの魔導師を動かしたとなれば、それだけでも大問題となり 先方の領主様に多大な借りを作る事になりますから」
「・・・・・」冷や汗ダラダラ
「もしも 万が一 ハルカ様に何か有れば 戦に成っても不思議ではありませんもの。
ハルカ様が大人でしたら まだ自己の判断で動いたと言えますが、子供では 騙して動かしたと言われても反論出来なくなります。うまく事が運んで幸いでございました」
フレナルは権力者の娘として、真剣に領民の事を考えるほど純粋な心を持っていた。
その想いが衝動となって ハルカに無理な願い事をしたとしても無理からぬ事。
ただ世の中の理不尽なところで、人としては間違いではない行動も 多くの人間の運命を左右する立場となれば必ずしも正しいとは言えない事も多々有るのだった。
リリエラの言葉によって 自分の立場を再認識させられたフレナルは無意識に体が震えていた。
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「ふぇー、空飛んでるよ。長生きはするものだねー」
言葉だけ聞いているとお年寄りのセリフそのものだが、声の主はマウラ・・もとい、マウ。まあ、はしゃぐのは無理も無い。こんな杖で空が飛べるのだから 例え地球の子供でも喜ぶ・・・かも知れない。
さすがに二回目ともなると、領主邸の中庭に強行着陸しても誰も騒がなかった。
その代わり別の意味でハルカを慌てさせる羽目になっていた。
「ハルカ、無事で良かったですわー」
「なっ!」
半べそをかきながら 猛烈な勢いでフレナルお嬢さんが抱きついてきた。
ハルカの見た目は10歳?、対してフレナルは12歳。
たった二つの違いだが、フレナルの身長はすでに高校生ほども有る。
抱き付かれると顔がパフパフ状態になって嬉くて苦しいのだ。
「ハルカさん ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
私、自分の都合ばかり考えて周りが見えていなかったわ。ドラゴン退治は中止して今すぐ王都に戻りましょう。メイドは直ぐにでもお譲り致しますわ」
混乱したフレナルはハルカに同行していたマウの存在にすら気が付いていない。
猪突猛進な所はシーナレストとそっくりである。似たもの夫婦に成ることだろう。
ドラゴンを見に行く前に今のセリフを言われたら是非は無かっただろう。
しかし、今のハルカには大切な事実を伝える必要があった。
「ドラゴンを見て来た。年老いていて あと百年くらいで死ぬみたい。でも、その間 何も考えずに暴れ回る。やめるにしても それを考えてから判断しないといけない」
「えっ・・、それ本当なの?。どうしよう・・」
(あらあら、お嬢様の無鉄砲な行動が当たりを引いたみたいですね・・・。あの子の報告が正しいなら明日にでもドラゴンがここに襲来する可能性があるのですか・・)
ネチネチとフレナルを揶揄ったリリエラではあったが、ここに来てフレナルのカンの良さを思い出していた。フレナルには統治者にとって最も必要な先導するための能力
『大海の真ん中で港の方向を指し示す』ごとき 天性の第六感が有るようだ。
事ここに至っては、家の体裁を気にしている段階では無くなっていたのである。




