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84、ルクライアスへ行こう

ラザルと二人乗りで空を飛び、無事に王都に帰還した。


途中で奴隷の印である首輪を外そうとしたが、

「事態が落ち着くまではこのままにした方が良い」とラザル本人が望んだ。

何か思う所が有るのだろう。


「お、お父さん・・・うわあぁぁぁぁぁん」


ハルカは席を外したので 再会した親子の対面は詳しくは見ていない。




そして 今、ハルカは またも空の上を飛んでいる。

後ろにはルクライアス領主の娘フレナル嬢がすがり付いていた。


シシルニアの母親を引き取るべく 働いていると言う貴族の邸に行くと、そこは旅の途中で合流したルクライアス領主の王都別邸だった。


貴族の邸にいきなり訪ねて行ったため当然 最初は門前払いされた。

やむなくフェルムスティアの領主フランベルトに紹介状を書いてもらい、アポを取ってほしいと願い出て快く了承され 手順を踏んで訪問する事に成功する。


タイミングが悪かったのか、領主フレンコムは王城に祝いの品を届けていて留守とのこと。ハルカを迎えたのは領主本人ではなく 娘のフレナルだ。


「話は分かりましたわ。そうね・・ハルカさんが私のお願いを聞いて下さるなら、無償で件のメイドをお譲りいたしますわ」


タダより高い物はない。

ハルカは彼女が出した交換条件に危険を感じる。

精神的にオッサンのハルカは この手の話には危ない裏が有ると知っているからだ。


「それに・・もし、お願いを聞いてくれるなら、ハルカさんが欲しがっている 男の子の服 を沢山あげますわよ。弟の服が有りますから直ぐにでも」


「その話、乗った・・」


しかし、交渉事は彼女のほうが数段上だった。

彼女はララレィリア経由でハルカが男なのを知っている。

さらに 男子の服を欲しがっている事も知っていたのだ。げに恐ろしき女の繋がり。


衝動買いのように話に乗ったハルカだが、この後 条件を聞いて後悔したのはお約束である。



「凄いですわね・・もう既に我が領内ですわよ。何日も苦労して馬車で移動したのがウソのようですわ」


「フレナルは空を飛ぶのは初めてなのに恐がらないにゃ」


「それは、もちろん少しは恐いですわよ。

でも、もしも落ちても絶対に助けて下さいますもの」


「お嬢さんは大物にゃ」


「ふふっ。嬉しいですわ、ネコさん」


フレナルが同行しているのは、領内の道案内と 本邸でハルカが休めるように手配するためだ。もちろん 空を飛んでみたい気持ちも半分ある。

真っすぐ進む空の旅は順調に進んでいく。


さらに少し進むと、緑の草原が いきなり黒い荒野に切り替わった。

まるで 線を引いたようにクッキリと色分けされている。

ただ黒いだけではない、火山の溶岩が冷えて固まったような状態に見える。


「ここには村が有ったはずなのに。・・焼き尽くされているわ」


フレナルの依頼とは この元凶であるドラゴンの退治なのである。

草原を火山地帯のように変えてしまうバケモノを子供のハルカに退治させようなど、いくら魔法が有るとはいえ無茶な話なのは間違いない。


しかし、屈強な騎士団が束に成っても勝てない相手であり、子供か大人かにはこの際何の意味も無い。むしろ飛竜を撃退したハルカの方が可能性は高いと彼女は考えていた。たとえ殺せなくても領内から居なくなれば大成功なのだ。


東京ドームの5倍ほどの広さの黒い荒地が終わり、また緑の草原が続いている。

右手には雄大な山が近づいている。ドラゴンの根城とも言えるブロナ火山である。


「ドラゴンは長生きですから 昔から存在は知られています。でも、これまでは人里に被害が及ぶ事はありませんでした。ここ5年ほど前からですわ、被害が報告されたのは。そして年々被害が酷くなっています」


「なるほどにゃ。領主として何とかしなくては領民に示しが付かないか」


「いえ、そんな建前を気にしていられないほど事態は逼迫(ひっぱく)しておりますの。

いつ人間を食べだすか・・恐ろしくてなりませんわ」


地球でも 人間の味を知った熊は続けて人を襲うことが知られている。

彼女が恐れるのはその点なのだろう。

人間の味を知ったドラゴンが都を襲い、倒す事も出来ず 次々に人々が食べられる。

確かに とんでもなく恐ろしい光景である。


ノロとフレナルの会話を聞きながらもハルカは無言であった。

今もドラゴンとの戦い方を色々と考えてシミュレーションしている。


やがて遠くに城壁に囲まれた大きな都が見えてくる。

ルクライアスの都、フレスコンである。


「私が同行してるのですから、直接 館の中庭に降りますわよ」


「むぅ・・嫌な予感しかしない」


城壁を上空から素通りして 都の中心にある領主邸に向かう。

侵入者の情報が魔道具で届けられたのだろう、館の窓や玄関からワラワラと人が出てくる。サラスティアでの光景と同じだ。完全に敵認定されている。


窓から顔を出しているのは魔術師らしく 殺気を孕んだ目を向け、次々と魔法を打ち上げてきた。

ここはフェルムスティアの領主邸よりも空に対する警戒態勢が充実しているようだ。

しかし、この様子では 上から特大の魔法を落とされたらひとたまりも無いだろう。

ハルカのそのシュミレーションは考えただけで罰せられそうな危険思想だ。


だが、それはハルカの視点で考えた場合である。

ハルカですら 飛行に専念している時は大きな魔法を使う事は出来ない。

まして、一般の魔法使いが そんな攻撃を実行するのは極めて困難と言えた。

普通は上空からの魔法攻撃など考える必要が無いのである。


もう一人強力な魔法使いが居れば可能ではあるが、屋敷を吹き飛ばすほどの術者が

2人も揃うなら 魔物の森はもっと開拓されていただろう。

それほどに魔法の実力者は稀有な存在なのだった。



下で騒ぐ衛兵たちをスルーして建物の屋根を越え、中庭に降下していく。

防衛していた外の彼らがたどり着くまでには少しばかり時間が掛かるだろう。

そう思い 誰も居ない中庭に降り立った。


「狼藉者かと思えば、フレナルお嬢様でございますか。

また このようなお戯れをなされて・・危うく殺めてしまうところでしたわ」


「流石ね、リリエラ。この状況に対応できるなんて素晴らしいですわ」


これには ハルカもノロも肝を冷やす事になる。

誰も居ないはずの庭に足を付けた瞬間、ハルカの首には後ろからナイフが当てられていた。後ろに居たのは20代と思われるメイド姿の女性。

音も気配も無く背後を付く手腕は 転移魔法でも使ったのかと思えるほどだ。


彼女に気付けなかった理由の一つには殺気が無かった事もある。

そして それゆえに彼女も守護の精霊からの攻撃を受けなくて済んだと言える。


「それで・・お嬢さま。こちらの殿方はどのような方なのですか?」


「凄いわね・・初見でハルカを男の子と見破ったのは リリエラが初めてじゃないかしら」


ハルカは呆然として言葉も無い。

この世界のメイドはスーパーウーマンばかりなのだろうか?と本気で考えていた。

ハルカのリストに戦ってはいけない女性がまた一人増えてしまった。


この頃になって、やっと外を守っていた者達が ドアを破らんばかりに庭に飛び出して来る。その先頭に居るのは初老の執事らしき男である。


「ご苦労様、フランドル。皆の働き見せてもらいました。

なかなか良い動きでしたよ。最後の詰めはリリエラの勝ちでしたね」


「えっ・・フレナルお嬢様?。では、先ほどの侵入者はお嬢様でしたか。

にしては お早いお帰り、もしや旦那様に何かございましたか!」


執事フランドルの一言で場は騒然となる。


「心配無いわ。父上はご無事ですわよ。祝いの品も無事に収める事ができました。

でも、途中でオークの上位種に襲撃されて危なかったのよ。

その時 助けてくれたのが、ここに居るフェルムスティア筆頭魔導師のハルカですわ。わがルクライアスにとっての大恩人ですから、皆も心して対応するように」


「何と!。この若さで筆頭魔導師とは」


おおおーーーーっ と一斉にどよめきが沸き起こる。

以外な事に ハルカが筆頭魔導師なのは驚いているが 領主を助けた事には誰一人疑いを持たないようである。


それもそのはず、中庭に強行着陸するフレナルお嬢様の策略が大成功したのだ。

子供が空を自由に飛んでいるだけでも驚愕する事なのに、都の警戒網を突破し 全ての攻撃を退けて この場に居る現実が ハルカの力量を物語っていた。

誰一人ハルカの実力を疑う者はいない。


「驚くのは早いですわ。

ハルカには明日にでもブロナ火山に住むドラゴンを退治していただきます」


「な!」 「ひっ!」


吉報に喜び 賑やかな雰囲気だった場は、フレナルの一言で凍りついたかのように音も無く固まっていた。



*****************



その頃、王都スティルスティアでは、王子オラテリスが「自分以上」とぼやく才媛達がお茶会をして情報交換をしていた。


「兄上を篭絡してのけた噂の子は 未だに招待する事が出来ないようですね」


「リュシナ姉様のケモミミ諜報部隊でも 今はロストしているようですのよ」


第一王女リュシナの二つ下の妹リュエラ。そして末っ子の第3王女アリシエラ。

彼女達はハルカに並々ならぬ興味を抱いていた。

ともすれば 女性を拒絶するように興味を持たなかった兄オラテリスがぞっこん惚れこんだ少女、自分達の義姉になるかも知れない人物に 興味と警戒心を持たない訳が無かった。


「情報によると 自由に空を飛ぶほどの魔導師らしいですから、今は都から離れているとみていますのよ。

それより、・・・・フェルムスティアとルクライアスは祝いの品を無事に納品できたようですが、他はどうなる事かしらね」


「その話は聞きました。納品できた二方も途中で襲撃され 危なかったとの事ですし、明らかに妨害されていますわね」


「都には私達がおりますから、リンリナルのシッポを捕まえて報復してさしあげましょう。どうせなら件のハルカさんにリンリナルを国ごと消し飛ばしてもらいましょうか」


楽しそうに国の行く末を左右する状況を語る少女達。かなり好戦的な性格のようだ。

側で給仕をしている侍女は2人の話を聞いていても平然としている。

彼女たちもリリエラに負けない一級品の曲者なのであった。


ハルカが望むのんきな生活は まだまだ遠い先のようだ。





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