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83、ロックゴーレム

やがて ハルカの耳にも不快な音が聞こえて来る。

重い石が周りの壁にぶつかりながら進んでくるような音だ。



「おっ、おい。この音は・・」


「ちくしょう、バケモノが追いかけて来やがった」


「俺たちは逃げられねぇ。死んじまう」


「死ぬ前に美味い肉をたらふく食いたかった・・」


喜んで騒いでいた男達は 今度は恐怖におののき 哀れな声を上げていた。

奴隷達は魔法で「鉱山から離れるな」と命令されているのだろう。

このままでは 奴隷達だけが取り残されて死ぬ事となる。

せっかく助けたラザルも同様だ。



「ねぇ、ノロ。・・あの魔法、利くと思う?」


「魔力の循環を止める魔法かにゃ?。相手は魔物みたいだし可能性は高いにゃ」


「じゃあ ・・やってみようかな」


ハルカはテクテクと坑道の入り口に近づいて行く。

いよいよ近くまで来たのか、工事現場でコンクリートの壁を壊すような音が響いてくる。このような岩場の洞窟で発生するのは 大抵が石で出来たゴーレムらしい。


ゴーレムと言えば、有名なゲームに出てくる ドラム缶みたいな円柱の石を繋げて人の形にしたパワーファイターというイメージがある。

「振り下ろされる腕の一撃に気を付けなくては」・・と思っていたのに。



「えっ・・。何?アレ」


「アレがゴーレムにゃ。どうやら普通サイズにゃ」


どう説明したら良いだろう。

胴体と思しき大き目の岩の周りに 岩を繋げたような数本の足?が伸びている。

地球の生き物で一番近いイメージは、海に住むヒトデだろうか・・。それも見た目の悪いオニヒトデを連想してもらうと早いかも知れない。

要するに岩を連ねて地面を(うごめ)く不気味な魔物なのである。

あれがゴーレムとは、少年の夢を破壊するにも程が有る。

ハルカはガッカリすると同時に怒りが湧いた。


考えてみれば、岩から発生しただけの存在が 人の形に整形されている方が不思議なのだ。人が作り出した魔物だったら話は分かるのでフィクションと現実の違いか。


「おい、お嬢さん 逃げろ!。そいつは魔法で攻撃しても倒せねぇ」


「じゃあ・・ちょっと強めにやってみる」


「ったく、しょうがねぇな。気をつけろ 近づくと石を飛ばしてくるからな。

ケガ人はそれでやられたんだ」


「なる・・了解した」


幸い ゴーレム?の移動速度は遅いらしく、まだ今なら充分に距離が有る。

ハルカは青い杖を取り出して 先端をゴーレムにむける。


白いドレスを着た黒髪の少女が 遠めにも宝物と分かる青く美しい杖を持つ姿は、鉱山という荒々しい場所では輝いているようにすら見える。

髪の毛がキラキラと輝きだした事で さらに神々しく見え、その場で見ていた男達は 自分達が危機的状況なのを忘れてしまうほど見蕩(みと)れていた。


ゴーレムは本能的に ハルカを危険な敵と認定したのか、まだ遠くなのに 人の頭ほどもある大きさの石をしきりに飛ばしてくる。狭い洞窟内ならこの攻撃は凶悪だろう。

広い場所で飛ばされても落ちた石は方々に転がり 真っ直ぐには来ない。

だが転がった石とは言え大きいのだ、万が一でも当たれば大ケガするだろう。

まして、ハルカは身体的にはお子様の紙装甲なので 当たれば死ぬ。


数人の男達が 分厚い板を持ってハルカの前に構え、間違ってもケガをしないようにしてくれた。ハルカが念入りに魔力を集めているので時間が掛かっているかのように感じるが実際はほんの一瞬の時間でしかない。


やがて魔力が収束し魔法が完成される。

どんなもの凄い魔法が使われるか、見ている者 全てが注目していた。

ところが、全く魔法が使われたようには見えない。

ハルカに(まと)わり付いていた輝きも消え、 杖も下された。


魔法が失敗したのだろうと思った時、皆がその変化に気付く。・・・・静かなのだ。

攻撃を受けていないはずの魔物がピクリとも動かない。



鉱山を存続の危機に陥れていた脅威は呆気なく排除された。

その事実に気が付くまでの僅かな時間、あたりは静寂に包まれる。


そしてゴーレムの残骸は掻き消えるように自動回収された。

ロックゴーレムは名前の通り 普通は単なる石で出来たゴーレムなのだ。

だが ここは鉱山である。

魔力が巡回しやすいように組み上がった体は 自然と良質な鉱石ばかりが集められる事となる。


ハルカの亜空間倉庫には 自動で精製された一本のインゴットが収められていた。



***********



シシルニアの父親ラザルが目を覚ますと青い空が見えた。

そして次の瞬間には 強烈な空腹感が彼の胃袋にボディブローを叩き込む。

これは肉が焼かれている匂いだ。

それも 単に焼いているのではない、調味料が利いた美味しそうな匂いなのだ。


彼が重くダルイ体を起こすと ウソのような光景が広がっている。

巨大な肉の塊を中心にして沢山の焚き火が作られ、鉱山で知り合った男達が それぞれに肉を焼いて美味そうに齧りついていた。


その中に 一際異彩を放つ姿がある。


鉱山の現場責任者である 鬼のような管理人の隣に座って肉を食べているのは 見覚えがある可憐な少女。

驚いた事に鬼の責任者は 見た事も無い満面の笑顔で少女の世話を焼いていた。

彼ばかりでなく 全ての男達が陽気に食事をし、まるで 祭りの会場に紛れ込んだようである。

ふと目が合った少女は ラザルが気付いた事を知り、小走りで近づいて来る。


「シシルのお父さん。探しましたよ」


「君は・・あの時のお嬢さんだね・・。俺は奴隷にされてしまった。

シシルニアの事、宜しくたのむ」


「いいから来て。ゴメスさんも話が有るって」


いたずらっ子のように目を輝かせた少女に引っ張られていくと、管理人ゴメスは恐ろしい顔で待っている。

この後の自分の身の上を思うと背筋が寒くなるラザルだ。


「おい!お前、昨日来たばかりのラザルだったな・・」


「は はい、ゴメスさん。そうです」


鉱山に来た早々 命令に従うように徹底的に粛清を受けた新人奴隷達は、彼と話す時は無意識に戦々恐々となってしまう。


「お前は 鉱山の中で大怪我をして運び出された。バケモノのせいとは言え、現場でケガ人が出ると俺の管理責任が問われちまうのさ。分かるか?あぁん!」


「も、申し訳ありません」


「そこでだ、テメエは俺の一存で処分することにした。覚悟するんだな」


「処分・・」


ゴメスがガサゴソと取り出したものは虫皮紙であり、ラザルはそれに見覚えが有った。忌まわしき奴隷契約書である。



「ふっ、ラザルよ、良い娘を持ったな。そして 娘は凄い人を友達に持った。

帰ったら娘に感謝する事だ」


突然豹変したゴメスは 心底嬉しそうな顔でラザルを見た後、目の前の焚き火に契約書をかざして燃やしてしまった。


「お前は たった今、鉱山の奴隷をクビになった。今後はこちらのハルカ嬢ちゃんの物になる。死にそうなお前や 他の奴等を魔法で治療し、坑道から出てきたバケモノまで退治してくれた。今度のご主人はもの凄い人物だぞ。がんばれよ」


「・・・えっ?。それじゃあ・・」


「体は治してありますから、急いで食事をしたら帰りましょう。

シシルニアが泣いて待ってます」


「この肉はハルカ嬢のさしいれだ。この他にもウルフの肉を山ほどもらった。おかげで 当分はこいつ等に腹いっぱい肉を食わせてやれるぜ。ありがとうよ」


ハルカがゴーレムを倒した後、大喜びの男達は せめてハルカに食事を出そうとしたが 鉱山の食事事情は最悪と言ってもよく、 とても客に対して出すような物では無かった。

特に新鮮に運ぶ事が出来ない肉に至っては、良くて干し肉が届けられる程度であり まともな物は手に入らない。


事情を聞いたハルカが 倉庫に眠らせてあったウルフの肉を取り出すと、その新鮮さに驚いた男達は土下座でもしそうな勢いで「売ってくれ」と詰め寄ってきた。


肉に飢えた肉食獣の目で迫られたハルカは 次々とウルフの肉を取り出し男達を狂喜させた。最後に野生の牛 ゴンゴロウの肉を丸ごと取り出した時点で 今のお祭り騒ぎに成っていたのだ。


一連の話を聞いたラザルは 改めて少女に助けられた事を痛感していた。

この世界には恩返しという概念は無いが 少女に対して只ならぬ借りが出来た事を知ったラザルは、奴隷としての考え抜きで ハルカを自らの主人と仰ぎ見ていた。


涙を流しながら口にした久しぶりの肉の味は、今まで生きてきた中で最高の美味しさだったと彼は言う。





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