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81、ハルカ、がっかりする

「光が有れば影がある」と言われるように、人が多く集まる場所には華やかな光の世界と 人の目から隠された陰の面が有るものだ。


華やかな王都の暗部、その一つが ヴェルマルタ商会である。

正式な商会でありながら暗部と言われるのは その経営体質によるものだ。


「次は食品部門の報告を聞こう」


「はい。今のところ予測通りの価格で推移しているようです。高値が付く肉の相場は 以前の2割り増しとなり、後少しで商会の備蓄している肉を放出いたします。

保存に掛かった魔法の経費などを引いても 予定していた利益を上回るはずです」


「ふっ、当然だな。この時の為に冒険者ギルドよりも高い買取りをしてきたのだ。

次は衣料部門、報告しろ」


指名された担当の商人は 傍から見ても動揺し 薄っすらと汗をかいている。

何か有ったのは明らかなのだが あえてそれを会議の中で晒す事で楽しんでいる。

それが 商会のドン、ボボス・フェルマルタという男だ。


「商会で保管してあります王室献上品クラスの毛皮の相場ですが・・暴落いたしました。今では通常価格まで下がっております」


「あん?。冗談はよせ。普通の毛皮なら分かるが、滅多に手に入らない極上の品だぞ。どこに下がる要因が有るというのだ」


「原因は判明しております。

本日到着した商隊の積荷に同レベルの毛皮が大量に含まれておりました。

相場が良かった事で 彼らが一気に売り出したために相場が変わったようです」


「何だと・・、もう少しすれば 貴族共が買い求めて相場が跳ね上がるというのに・・」


ヴェルマルタ商会は相場を無理に操り 膨大な利益を上げる集団である。

その工作は合理的で緻密に計画され 余程の事が無ければ失敗はしなかった。


フェルムスティアでの木材販売の時もそうだが、普通であれば 通常価格でも充分に利益は上がる。しかし、彼らは相場を操作して 利益を何倍にも上げることを良しとする為、その為の策略に必要な経費が(かさ)み 通常価格では割が合わないのである。


「もう一つ情報がございます。その商隊と同行していた者にラザルの娘が居たようです。今回の毛皮の件でも関わっていると思われます。ラザルに毛皮を売ったとされる令嬢と娘が 行動を共にしていたと聞いておりますので、その令嬢も同行していた可能性が高いものと存じます」


「ほう、・・その御令嬢とやらに入手経路をお聞きすれば、今回の損失もチャラに出来るだろうな。情報を集めたら 我が商館に御招待しよう」


不気味な笑いをするボボス・フェルマルタの後ろでは執事のように佇む紳士が僅かに表情を動かしていた。


シシルニアの父親ラザルは何故か この場には居なかった。



***************************



ハルカは冒険者ギルドでの用件を全て終わり、宴会を始めたコルベルトたちと別れて 食べ歩きに出かけようとした。


ところが 受付の人に呼ばれたので 付いて行くと、またもやギルドマスターの執務室に通された。


ギルドマスター・・それは正に極悪非道な顔であった。

歌舞伎町を歩けば人々が避けて通り、物影からヒットマンがドスを持って襲ってきそうな凶悪な人相をしている。


「俺がここのギルドマスターをしているブラフガンだ。

フェルムスティアの冒険者達が 大量の素材を納入してくれて本当に感謝している。お祭り騒ぎで需要が大きいのに色々と不足して困っていたんだ」


「礼は受け取った。・・では、失礼する」


「いや、まてまて。話はこれからだ。せっかちだな」


「ドラゴンステーキが待っている。・・屋台のメニューも捨てがたい」


「ドラゴン・・何時の話だ?。そんなのとっくに品切れしてるぞ。おまけに今の屋台の料理は止めた方が良い」


ハルカは愕然とした。

ある意味 それが目的で王都まで来たようなものだ。

フェレットが騙した・・というより情報伝達の遅い世界なのが原因だろう。


「えっと、何で 屋台の料理がダメなの?」


放心しているハルカの変わりにシェアラが聞いてくれた。


「その為にお嬢さん達に残ってもらったのさ。話を聞く気になったかい?」


「下らない話だったら・・ ぶっとばす」


最高に不機嫌なハルカがギルドマスターに無礼な言葉を使う。

だが、当のギルドマスターは逆に最高にごきげんで悪い笑顔になっている。


小さな女の子が 自分の顔をを恐れずに強がって脅しをかけている。

その事実にブラフガンは内心 大喜びでハルカを見ていた。

もしもハルカの報復が地獄の苦しみだと知っていれば笑えないだろう。


「話と言うより 相談なんだが、あれだけの素材を持ってたんだ、ひょっとして肉も沢山持ってるんじゃないかと思ってな。もし有るなら是非ギルドに売って欲しい」


「肉?。冒険者ギルドなのに肉が無いの?」


「そうなんだ。誰かが買い占めているらしくてな、かなりの高額で冒険者たちから直接買い取っている。おかげで商業ギルドから催促されても少ししか下せなくてな、市場の価格も跳ね上がっている」


「そんな事 教えて良いの?。そっちに売ったほうが高く売れるのに」


「お嬢さんはお金に困ってないと思って 本音で相談している。肉が高額で困るのは 貧しい者やレベルの低い冒険者達だ、何とかしたくてな。それに、屋台のメニューも それが原因で数が減っているし、味も落ちている。今日 安く肉が売り出せれば、明日からは本来の美味い味になるぜ」


「その話 乗った。・・あっ、代わりに一つだけお願いが有る」


「ほう、何かな。ギルドで出来るなら請け負うぜ」


ハルカが提示した条件は、帰りの道中で使うだろう野菜の手配だ。

ハルカの財力で買い集めた場合 都の経済を変えてしまいかねない。

許容範囲で買う為には物流を詳しく知る者の判断が必要になる。

幸い 穀物や野菜は豊富に流通しているらしく、問題なく手に入ると約束してくれた。


ギルドの貯蔵庫に移動したハルカが肉を取り出すと ブラフガンは慌てだした。

ウサギやウルフの肉くらいと思っていたのが、出てきたのがゴンゴロウやメルメルの肉だったからだ。少しくらいの場所では入りきらない。

大きさで言えば軽乗用車とダンプカーほども違う。その全てが新鮮で 血抜きも済ませた完成品なのだ。ギルドの修練場も利用して出せるだけ出す。


次には急ぎ商業ギルドの買い取り受付を呼び出して交渉に入り、市場に安く流す約束で売り出された。その量は王都で一月分の需要を満たすものだ。

成人の儀が終わるころには都の相場も落ち着きを取り戻している事だろう。

これだけ放出してもハルカの亜空間倉庫には まだまだ肉が備蓄してあった。


後日 約束の野菜を受け取りに来る事を打ち合わせて 今度こそギルドから退出する。今日は大人しく宿の食事で済ませる事にした。



「ハルカぁ・・ひっく」


「あれっ、シシル。・・・どうした?」


親元に里帰りしていたはずのシシルニアは 何故かギルドの入り口で待っていた。

そして、ハルカに縋りつくと号泣した。

気の強い彼女が 人目も忘れて声を上げて泣くなど ただ事ではない。

そっと抱きしめて 頭を撫でて落ち着くのを待つ。


しばらくして落ち着いたシシルニアと宿に帰って話を聞く事にした。

商人が宿泊する高級宿なので防音にも配慮がされている。


「あのね・・えっとね・・」


普段は合理的でそつのない会話をする彼女が、幼女に返ったかのように 何から話していいか分からないようだ。


「落ち着いてシシル・・絶対 何とかしてあげるから」


そう言ったのが悪かったのか、また彼女は大粒の涙を流して泣き出した。

話が進まない・・普段の強気なシシルニアとのギャップが大きすぎる。


(なだ)めすかして聞けた話を要約すると、彼女が家に帰ると 自宅はすでに他人の物となっていたらしい。

訳が分からず 近所の仲の良かったおばさんに聞くと、家だけでなく両親も 商売の責任を取らされて奴隷として売られたとの事。

それ以上 詳しい事はその人も知らなかったらしい。


商会に行って事情を聞きたくても、下手をすれば 自分も売られかねないので絶対に行く事は出来ない。



「順番に考えよう。まずは・・両親が何処に居るか分からないと何も出来ない」


「うん、・・そうだね。どうすれば良いの?」


「ギルドマスターに事情を話して、信用できる人に探してもらえるように依頼を出す」


シシルニアとシェアラを宿に残し、ハルカは一人でギルドに戻っていった。

ギルドマスターの執務室、ハルカにとっては何時もの事だが、普通なら子供が尋ねるような場所ではない。

ところが 少し前に案内してくれた受付の人に面会を希望すると直ぐに案内された。

執務室では もの凄く機嫌の良いギルドマスターが出迎えてくれる。


何でも 肉を大量に商業ギルドに卸した事で喜ばれ、今までの鬱憤が晴れたらしい。



「そうか・・。あの商会は色々と黒い噂が有ってな、違法ギリギリで悪どい事をするので有名なのさ。今回の肉の高騰も奴らの仕業だと分かっているが、商売としては違法じゃねぇから取り締まれない。まぁ、事情は分かった。捜索の件は責任を持って引き受けよう。でだ、依頼料はいくらにする?。少し割高になるぞ」


「金貨一枚で足りる?」


「ぶっ、おいおい。討伐依頼じゃないんだ、そんなに高くなくてもいいぜ」


「その代わり、探している事が気付かれない上手な人に頼みたい。高いのは技術料」


「なるほど、その条件なら 明後日には分かるだろう。もう一度 直接ここに来てくれ」


「宜しく・・お願いします」


「お嬢さんは恩人だ、任せてもらおう」


ハルカは今もドレスを着ているので、女扱いを否定できない。


王都なら 子供服くらい手に入るのでは・・と密かに期待するハルカだった。



やっと投稿できます。皆さんも風邪には気をつけてください。

今年の風邪は何かヤバイです。

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