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80、大富豪、ハルカ


ハルカが王都スティルスティアで選んだ宿は 日本で言えば一流ホテル。

コルベルト達の宿とは別になってしまうが近くなので問題は無い。

最初は同じ宿にしようとしたが、安いだけあって環境は良くない。

酒場が食堂兼用なのはよくある話だが、部屋がそのままラブホテルとしても使われる為 子供にはデンジャラスだ。


おまけに王都では王太子成人の式典が近いためお祭り騒ぎでほど良い値段で安全な宿は満員。とても入り込める状態では無かった。

ハルカ達の泊まる宿は宿泊費は高いが 商人が泊まれるほど防犯が徹底している。

同じく旅をしていた商人達も何人か泊まっていた。

フレネットはフルベーユ商会の本店がある為 そちらに宿泊するらしい。


「シシルニア・・落ち着いたら皆で街を散策しよう」


「うん、そうだね。色々と案内するわ。

本当はね・・母さんに叱られそうで恐いけど 帰って顔を見せて来るよ」


シシルニアは実家に帰るので しばしのお別れだ。


ハルカはコルベルトと合流して冒険者ギルドに報告と道中手に入れた素材を売りに行く。旅を共にしていた騎士も冒険者達もどれほどの値段になるか楽しみにしている。


その後は 今回の旅の最大の目的、ドラゴンステーキを食べに行きたい。



「ハルカちゃん、お待たせ。行きましょう」


「毛皮は殆ど売ってしまったけど他にも素材が沢山有るし、おいは楽しみだ」


「あぁ、そこそこの金額になるだろう。護衛依頼の途中で狩ったからギルドの討伐依頼とはならないが 多少の功績にはなる。こんな時くらいは貯金もしておこうぜ」


「師匠・・意外と堅実?」


「シェアラ、冒険者をするなら 少しはゆとりが無いと失敗して命を落とすぞ。

お金に困って受ける仕事は冷静な判断を欠いているからな、焦って失敗もし易い」


冒険者登録は責任者が居れば子供でも登録だけは可能だ。

ハルカもフェレットの責任で登録されている。

今日 ギルドに行くのは シェアラの冒険者登録も目的の一つだ。


********************


そのころ、皇太子オラテリスは 呼び出しを受けて王の執務室に来ていた。

無断外出に王女との決闘など、色々とやらかしている王子ではあるが、その顔に悲壮な面持ちは無く 一切の後悔は無いという想いが 堂々とした態度に滲み出ていた。


宰相はそんなオラテリスを見て わずかな間に別人のように変わった雰囲気に驚き、王は苦笑いをうかべている。


「良く無事に帰った。良い面構えになったな。

お前は王家で初めて飛竜に乗った男だ、乗り心地はどうであった?」


「既にそこまでご存知でしたか・・恐れ入ります。無断で外出し ご心配かけましたこと申し訳ありません」


「無断で無くては出られる訳が無かろう。良い、お前の顔を見れば良い勉強になったのは分かる。リュシナにも勝ったそうではないか、何時の間に強くなった。

このまま行けば歴史に名を残せる剣士と成れるぞ」


「いえ・・自分はこれ以上 強さは追い求めません。勿論 男である以上 強さに憧れはありますが、自分に求められる強さは別に有ると思い知らされました」


返答を聞いた王と宰相の表情が微妙に変化する。

王子の堂々とした態度は 剣士としての強さに依存した自信なのだろうと思っていたからだ。予想以上に王子が成長していた事を驚くばかりだ。


「ふむ。オラテリスよ、成人の儀にふさわしい大人になったな。

国民や臣下が王家に求める強さとは 剣を振り回して敵を屠る強さではない。

どうやって守るべき者達を生かすか、その決断をする強さが求められている。

その為には戦場に大切な家臣を送り出し、死なせる決断すらしなくてはならない。

その苦しみに耐えて決断するからこそ 死んで行く者達は犬死にならず、名誉と誇りを持って死んでいける。

それ無くしては死にゆく臣下をゴミのように捨てるも同じ、決して忘れるで無いぞ」


「ゴミのように!。・・はい、分かりました父上。有難う御座います」



宰相モートリアムは この時まで王子に対して怒りを抱いていた。

王太子が外出した事で彼がどれ程 苦労したかを考えれば当然の事だろう。

彼のそんな苦労は、この時 報われていた。


王の言葉を王子は理解し、受け止めていたのだ。

以前の王子なら気に掛ける事すら無かったであろう。

たった一度の旅が 子供を王の器量に変えている。


(誰が王子にそれを教えたのか?。2人の領主が同行していたと聞く。

機会が有れば礼を申さなくてはならないだろう)



「ふむ。女に惚れてお前も男になったか・・。

して、お前を飛竜から救い出し、メルメルの群れを一撃で壊滅させ 王子を篭絡してのけた魔女はどうした?。皇太子の命を救った英雄を なぜ連れて来なかったのだ」


「ハルカは魔女ではございません。そこまで情報をご存知なら すでに分かっているのでしょう。あの子はフェルムスティアの筆頭魔導師です、招くなら正式に招待すべきと存じます。それに・・この場に連れていない一番の理由ですが、彼女は地位や名誉で動く人間では無いからです。今頃は友と王都を散策していることでしょう」


「地位や名誉に(なび)かず自由気ままが一番・・か。我らにとって最も扱い難い条件だな。ある意味、最も気高く王妃になるに相応しいか」


オラテリスは 王としての顔をみせた父親に対して畏怖を抱いていた。

なるほど、武器など向けなくとも恐いものだな、と今更ながら思い知らされる。

ハルカをあえて魔女と言ったのはオラテリスから情報を得るため、そして 今も手に入れた僅かな情報で彼は様々な事を想定しているのだろう。


「ふむ。分かった。未来の王妃との顔合わせは 後日の楽しみとしよう。

すでに モートリアムが監視くらい付けておるだろうから対応はまかせる。

珍しき黒い瞳と美しい黒髪か、何者なのであろうのぅ・・」


「承知いたしました。・・・・・・・・しかしながら、件のハルカ様には 姫君の方々も興味津々のご様子。さらに 城の魔術師、とくにラニカ殿は今にもコンタクトを取りたく画策しているようで、私でも抑えるのが難しくございます」


「ぬぅ、それは困るの。そも お主も会いたいであろう?」


「えっ、いえ 恐れ入ります。国事に関する重大な事柄ですので」


自分が予測したのとは別の方向でハルカは注目を集めているらしい。

オラテリスはハルカが皆に巻き込まれて暴走しない事を祈るばかりだ。


*******************


そんなハルカは久々にテンプレを経験していた。


「ヒッヒッヒ、お嬢ちゃん ここは子供の遊び場じゃねーんだよ。

ミルク臭くなるから帰んな。それとも俺が胸でも揉んで大きくしてやろうかぁ?」


「下品・・」


「カァーッ、何言ってくれてるの?。ここは冒険者ギルドだぜ。

下品でけっこう、上品な奴はクソして寝てろってかぁ。ヒッヒッヒーぃぃ」


ゴスッ☆☆ドンガラガッシャーン


下品な男は ハルカが魔法を使う前に 立った姿勢のまま真横に飛んで行き 壁に激突していた。

さすがのハルカも想定外で呆気にとられる。


「ギルドが誤解されるじゃねえか。下品なバカはゴブリンにでも食われちまえ。

久しぶりだな ハルカ、ようこそスティルスティアへ。歓迎するぜ」


「おー、でかい ビルディン・・久しぶり」


以前、フルベーユ商会の商隊を護衛していた冒険者のビルディン。

そう言えば 彼のホームグラウンドは王都だった。


「おうおう、その子にケチ付ける気なら俺たちが相手に成るぜ」


ゾロゾロと入り口から入って来たのは 一緒に旅をして来た冒険者達だ。

皆 ひと回り逞しくなった気がする。


「大丈夫?。ハルカちゃん、何もされなかった?」


「ん・・ビルディンは友達。心配ない」


すっかり世話好きな姉御に成っている冒険者パーティのリーダー ココリスは、

ガタイの良いビルディンがハルカに因縁をつけたと思ったらしい。


「おっ、友達と言ってくれるのか、嬉しいねぇ。ハルカには以前 旅の途中で世話になってな。辛いときに食い物を貰ったお陰で随分と助かったものさ」


「「「「「「「おおーっ」」」」」」」


「あんたも そうなのかい。あたし等も旅の間 ずいぶん助けられたのさ。

おかげで魔物が出ても負ける気がしなかったよ」


「にしても・・お前ら、皆 強いな。フェルムスティアの冒険者はレベル高いのか?」


「久しぶりだな、ビルディン。

積もる話は用事を済ませてから飲みながら話そうぜ。今日はおごるからよ」


「コルベルトも居たのか、景気良さそうだな」


「あの子といっしょに護衛依頼で旅をしてきたんだ。当然だろ」


「チクショウ、本気で羨ましいな。徹底的におごらせてやる」


何やらオッサン達が 暑苦しい友情で盛り上がっている。

その隙に ハルカとシェアラは受付で用件を済ませていた。


「冒険者登録ですね。

こちらに名前と所在地、あと子供だから責任者の名前を書いてね」


「えーっ・・・。ハルカぁ、分かんないよぉ」


「代筆で良いなら・・・するけど」


シェアラの勉強はこれからだ。


そして落ち着いたコルベルト達と買い取り受付に行き 毛皮以外の素材を取り出したのだが 思った以上に大変な数と成り、ここでもテンプレを経験する事となった。


「えっ、納品する素材がこれ以上有るのですか?えっと・・今すぐ別室を用意致しますので少しお待ちください」


取り出した素材はすごい数になる。

特にメルメルの羊毛は膨大な量が有り、実に道中で売った毛皮以上の金額と成った事で 領主家の騎士や冒険者全員で分けてもそれぞれ人生で一番の収入となった。

夢のような金額を受け取った彼らが この後お祭り騒ぎになったとしても無理からぬ事だろう。


そんな中、一人 買取り担当の受付嬢がハルカのギルドカードを見て固まっていた。

彼女が固まったのはハルカの貯蓄額を見てしまったからだ。


盗賊たちから集金したり、ギルドを介さず売りに出した素材などで既にハルカの亜空間倉庫には遊んで暮らせるだけの金額が入っている。普段の生活には何も困らない。だから ハルカ自身ギルドに預けている預金を気にした事は無かった。

先日見たハルカの称号に大富豪が有るのは伊達では無かったのだ。


ドレス姿のハルカが引くほどの大金を持っている。

この後 ハルカに対する受付嬢の見方は『お忍びで冒険者をしている貴族のご令嬢』で確定した。 さもありなん。







とうとう80話。塵も積もれば80話てか。

見て下さる皆さん。ありがとーーっ。

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