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79、王都到着

「ハルカ、見て見て。大きな町が見えるよ」


「シェアラ、あれは町ではなく都。はぁ・・やっと着いたね」


フェルムスティアを発って9日、ようやく王都スティルスティアが見えてきた。

予想外のアクシデントに邪魔された割には、予定よりも早くたどり着いた事に成る。


スティルスティアは大きな川の側に作られた都で、フェルムスティアと同じように 豊かな水の恩恵によって広大な穀倉地帯を持っている。広がる景観は 都と川と畑によって絶妙な色の配置を見せて とても美しく、ハルカはそのまま 馬車の窓から景色に見入っていた。


「美しいでしょう。都の規模もフェルムスティアの三倍はある。このまま移住してくれるなら大歓迎しますよ。ハルカ嬢の好きな屋台も沢山出ています」


「良い都。でも 精霊樹が無い。・・・それに都が大きくなるのは当然」


「精霊樹か・・さすがにあれは王族でも無理ですよ。

でも、どうして都が大きくなるのは当然なんだ?。王都だからなのか」


「半分だけ正解。・・王子の立場で言うなら落第点」


「なっ、どうしてだ。是非とも 教えてくれ」


『ウザイ奴に捕まってしまった』とハルカは思っているが周囲を護衛している騎士や近衛たちはその様子を微笑ましく見ていた。

いや、一人頭の固いグングルスだけは別だった。


「殿下に対して馴れ馴れしく口を利きおって・・。フェルムスティアの魔導師とは言え平民ではないか。立場を弁えれば良いものを」 ぶつぶつ


「グングルス殿、あまりイライラしてますと 宰相殿のように頭が寂しくなりますよ」


「ジンジニア殿こそ、あのような態度を注意して頂きたいものですな。

無礼にも程がある」


「今の内ですよ。殿下が あのように気楽な会話が出来るのも お忍びの立場なればこそです。それを楽しみに出てきたのに 邪魔をしては可哀想です」


ジンジニアも最初はグングルスと同じ気持ちだったが、ここまで旅を一緒にしてきて 少し考えが変っていた。ハルカ自身も王子に取り入ろうとする気持ちが皆無であり、むしろ 距離を置きたがっている。彼女?は 誰に対しても自然体で 野卑なところが無く、何処か平民とは思えない 知識と気高さが感じられるのだ。


「殿下が仰っていました・・国の法律では 力の強い魔法使いは王族との婚姻も可能なのだと・・。下手に批判なんてしてると、あの子が王妃になったらグングルスさんの立場が無くなりますよ」


「ばっ、馬鹿な事を申すな。天と地ほども身分が違うであろうが」


「そんなもの どうとでもなります。フランベルト殿に至っては 今直ぐ養女にしても良い位に 気に入っておられますしね。

第一、非公式とは言え、単独で飛竜から殿下の命をお救いした功績は絶大です。

話を聞いた王家の方々の行動を思うと頭が痛くなりますね」


「ぬぅぅ、確かに可能性は有るな・・。だが、場合によっては命を狙われるぞ」


「だから不安なんです。貴族家諸侯の下手な対応は 都を滅ぼしかねない。

せめてもの救いは、ハルカ嬢が地位や権力を嫌がっている事ですか」


不安を口にするジンジニアではあるが、ハルカが王妃になった時、道中 助けられた人々が諸手を挙げて喜び、国民が心から祝福する姿を想像してしまう。

ハルカが人々を無意識に助けていた場面を見て来た彼は、王妃になった時のゴタゴタよりも、その後のメリットが想像出来るので複雑な心境でもある。


ハルカが男と分かれば 彼らの不安は消し飛ぶのではあるが、ドレスを纏った可憐な姿を見てしまっては 誰一人として想像すら出来ないのであった。


馬上のオラテリスは 馬車に寄り添い、姫君を護衛する騎士のようになっている。

今もしつこくハルカに質問していた。


「自分で考えろ、駄王子」


「都に入ったら迂闊に話が出来なくなる。今しか答えを聞けないんだ。頼むから教えてくれ」


ハルカの思いとは裏腹に、周りからは仲の良い男女に見える。

オラテリスに至ってはハルカと会話しているだけでも幸せなのである。


都が近く、騎士団の護衛まで付いているため トラブルなど有る訳が無く。

先頭の騎士が国の旗を掲げて警戒されないように都まで行進していった。





その日、王都は異様な雰囲気に包まれた。

騎士団が隊列を組んで都に帰還するのは珍しくは無いが、その中に 今話題のオラテリス皇太子がいる。

しかも、近衛が周りを固めた豪華な馬車が連なり、その後ろには凄い数の商人の馬車が遠くまで並んでいた。


やがて 同行しているのが2人の有力な領主と分かり、門前では衛兵達が慌しく迎え入れる事となる。


商人達の馬車は門で審査を受けるため止められ、王子と騎士達そして領主一行だけが門を潜ると まるで凱旋パレードのように人目を引いていく。

領主達を率いているのがオラテリスという事実は 強烈なインパクトが有った。


都の人々は 城を抜け出して遊びに来るオラテリスの顔を良く知っている。

当然 若い仲間の騎士達も護衛として同行し都を練り歩く。身分を笠に悪事をする事は無く、むしろ ゴロツキなどがトラブルを起こすと直ぐに彼らに叩きのめされた。

彼の遊行が都の治安を良くしていた為、オラテリスは一般の人々からは大変に好かれていた。


そんな 普段はやんちゃなガキ大将が、今日は雰囲気がまるで違っている。

威風堂々と馬に乗る若者は 威厳が有り、身に纏う雰囲気は王者の風格を備えていた。



城が近づき 貴族街とも言える豪華な邸宅が並ぶ所で それぞれの目的地に分かれていく。王子達は城に、領主達はそれぞれの滞在する館へ向けて馬を進める事になる。

オラテリスは名残惜しそうにしていたが、ジンジニアとグングルスは少しだけ肩の荷が下りていた。


フェルムスティアの別邸まで領主を護衛したハルカ達は 日程などを打ち合わせした後、冒険者ギルドに依頼達成の報告をする事となる。


ララレィリアからは ハルカも邸に宿泊するようにゴネられたが、そうなると シェアラは別の扱いになる。彼女を守る為に連れてきたのに、側に居なくては本末転倒だ。

まして、堅苦しい邸に居たのでは 街中での食べ歩きの楽しみが無くなってしまう。

シシルニアも親に会いたいだろう。ララレィリアの誘いは丁重に断った。


ハルカは馬車だけ領主邸で預かってもらい、コルベルト達と宿探しに向かった。

都は広いので そうして置かないと落ち合う事も手間がかかるだろう。


*********************


オラテリス一行が城の門を潜り 入り口まで馬を進めていくと 大勢の騎士が入り口の両脇に整列している。

完全武装とまでは行かないが、城内で問題ないギリギリの装備をしていた。


「兄上。お待ちしておりましたわ」


「リュシナ?。これは何の騒ぎだ」


玄関前には第一王女リュシナが 軽装ではあるが騎士の出で立ちで迎えていた。

その後ろには彼女を担ぎ上げている貴族の面々も顔を揃えている。

兄の帰還を待ち望んでいた雰囲気では無い。

まるで 双方騎士の部隊を率いて これから戦をするようにすら見える。


「この大切な時期に 城を抜け出して遊び回る兄上には、王になど成って欲しくありませんわ。この場で私と決闘をして負けたら 王位を辞退していただきます」


「本気か?。リュシナ」


「当然です。

クラックス合衆国第一王女リュシナの名に掛けて、兄上に決闘を申し込みます」


ほぼ全ての騎士が立会人となり申し込まれての決闘であり、よもや断るような状況ではない。王女の勝利を確信している貴族や騎士達は やっと王女がその気に成ってくれた為 逃げ場の無い状況を作り上げていた。


これが、以前のオラテリスの実力であるなら詰んでいただろう。

オラテリス側の騎士達をはじめとして、近衛の面々も従者のジンジニアも 立場的に王族の正式な立ち合いには口を挟めないのだ。


リュシナは腰の長剣を抜き、石段を降りて来る。


「分かった。リュシナが其処まで覚悟しているなら この決闘受けよう。

だが、先に言っておく。

戦いを見届ける全ての騎士、そして近衛の諸君。戦いの結果が如何あれ その瞬間より遺恨無く 国の為に職務に戻られる事をここに誓ってもらおう」


「ならば、審判は騎士団長の某がつかまつる。

作法にのっとり 勝敗は一方の戦闘不能、あるいは明らかに勝負が付いたと認められた場合決するものとする。これなるコインが地に着いた時が戦いの始まりと承知されたい」


勝負のスタートはコインをはじき、地面に落下した時点をもって開始とされる。

石畳の地面なので分かりやすく合理的である。


キーン☆


コインが落ちたと同時に仕掛けたのはリュシナ。

未熟な者では 目で追う事すら難しい速さで突きを繰り出し、払いに来る腕を狙ったフェイント攻撃である。


キシャン☆


「「「「「「おおっ」」」」」」


それを軽く受け止めたオラテリスに思わず両陣営から感嘆の声が出る。

自分達では凌げない攻撃を難なく受け止めたのは誰の目にも分かった。

旅に出る以前のオラテリスなら 今の一撃で勝負が付いていただろう。


「驚きましたわ、お兄様。本当に強くなられたのですね」


「良く言う・・情報がデマだったら 今ので俺は死んでたぞ」


「嬉しい。もっと もっと、確かめさせていただきますわ♡」


そこからは 誰も近寄れないほどの死闘が行われた。

一撃一撃が必殺の剣尖による 息も付けない応酬となる。

普通なら 重い剣をその速さで振り続けただけで疲労困憊するだろう。


それを見ていた両陣営は 最初驚きで動けなかったが、次第に顔色を青くしていた。特に戦いを(けしか)けていた立場の者達は、王女があっさり 勝利を手にすると信じて疑わなかった。どちらかが死ぬほどの戦いを目にして、すっかり怖気づいていたのだ。

お互いに 誰かが止めないかと目で助けを求めるも、誰も戦いに介入できるものではない。


近衛のグングルスは 強くなった王子の姿を見て目に涙を浮かべている。

居並ぶ全ての騎士達も 目の前で行われる戦いが真剣勝負であると感じ取っている。彼ら自身が オラテリスの実力が本物であると認めたのだ。


既に つまらない権力争いは忘れられ、皆は ただひとえに勝負の成り行きを見守っていた。


相手の剣をはらい、返す剣で切り払うと見せかけて肩を突く リュシナの必殺とも言えるフェイント攻撃がオラテリスに届く瞬間、かん高い音を立てて彼女の剣は根元から折れていた。


剣士は剣で身を守ろうとはするが、剣そのものを狙われる事は想定していない場合が多い。

騎士団長リクラチスの剣を折ったように、オラテリスは最初から彼女の剣を狙っていたのだ。


「くっ、負けましたわ兄様。・・嬉しさと悔しさの混じった複雑な気持ちです」


王女は折れた剣の柄をオラテリスに捧げ、騎士が恭順の意を示す姿を一同に見せつけていた。

彼女はオラテリスが強くなった情報を知り、最初から全ての者に その姿を見せるだけの為に 戦いを挑んだのである。

その目論見は見事に当たり、誰もオラテリスの実力にケチを付ける者は居なかった。


「これより私、リュシナは皇太子殿下の手足となり 国の発展に尽力を尽くすとここに誓います」


自らを支持する諸侯の前でリュシナが宣言する事によって、世継ぎ問題は完全に終わりを迎えた。


オラテリスは 押しも押されぬ皇太子と成ったのである。



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