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75、心配要りませんよ

ドラゴンの首には隷属の首輪が()められていた。

勿論 特製の大きな物である。


状態を見る限り 首輪だけの制約では無い。

以前 助けたジョンの時と同じで、召喚の際に付与される凶悪な隷属魔法だ。

解放したら暴れないか心配ではあるが その時はその時。

堂々とステーキに出来るので問題は無い。

そんな ハルカの獲物を見る目を見て 飛竜の方がビビッているように見えるのは気のせいだろう。たぶん


あの時と同じように 首輪を介して魔法の術式に介入し魔力で支配する。

その後に情報を書き換えれば良い。


「ん・・。とりあえず、主人は自分にして・・の後は解放。命令は、自らの判断で自由にする・・と」


記録の書き換えを終えて 首輪の術式を破壊すると首輪は自動的に外れてくれた。


「これで・・自由に動ける、もう誰にも捕まらない」


ぐるるるる


「この子、喜んでるよ。疲れて お腹も減ってるから 少し休んでから帰るって」


「じゃあ、これを食べると良い・・ウルフの肉とモツ、頭も有る」


ハルカは廃棄する予定の ウルフやメルメルの頭部やモツなどを取り出して飛竜の前に置いた。今まで狩った分なので、かなりの量が有る。

しかし、飛竜の巨体には足りないらしく、あっという間に食べつくしてしまった。


「ハルカぁ・・何か来たよ。今の臭いに引き寄せられたみたい」


何時の間にか ハルカ達を目指して巨大なトカゲたちが集まっていた。

知能が低いのか、ドラゴンが居るのに恐れも無く近寄って来る。

20匹前後は居るだろう。


「あれは 王都の北西部に生息する毒を持つトカゲだ。かなり 都に近づいていたらしいな」


オラテリスが解説している間にも、トカゲの頭には 次々と氷の槍が打ち込まれていた。

走り出すトカゲの足は 風の魔法で切り取られ、近づく事が出来ないでいる。


全て狩り終わると、トカゲの頭や肉を飛竜の前に置く。

倉庫に収納された時点で毒が取り除かれているので大丈夫だろう。

皮や爪やキバは アイテムとして収納されていたので、売れるものらしい。


「この子、ハルカに感謝してるよ。何か有ったら呼べって、助けてくれるみたい」


「飛竜・・ゲットだぜ」


「・・・・なにそれ」


「いや。・・気にしないで」


地球の子供に言っても 引かれるセリフを言ってしまう、オヤジな乗りのハルカだ。





その頃 フェルムスティア領主様ご一行では、何時ものペースで騒動の後始末が行なわれ 出発の準備が成されていた。


そんな様子をイライラしながら見つめている男が居る。


近衛騎士のグングルスは 飛竜に連れ去られた皇太子オラテリスを追いかけようとしたが、彼の馬は負傷して走るどころではない。

同行していた仲間の近衛騎士の馬も同様であった。

それ以前に馬も飛竜に襲われたショックでしばらくは落ち着かないだろう。


彼自身もヒザを痛めて 歩くのがやっとという状態であり、不本意ながら領主に王子の救助を要請した。

ところが、相手は全く慌てる事も無く一言、


「あの子が追いかけたなら心配要りませんよ。仲間の事を心配されたほうが宜しい」


領主だけでなく 騎士も冒険者も、まるで王子やドラゴンの事など忘れているかのように後片付けをしている。


こんな事をしている間に皇太子に何か有ったら と、グングルスは気が気ではない。

本来は 心配する彼の態度のほうが正しいのだ。


「エマーリス、まだ魔力は回復せんのか。俺の馬だけでも走れるようにせんか」


「隊長・・無茶言わないでください。私の種族で魔法が使えるだけで珍しいんですにゃ。あの子みたいなレベルで要求されても困りますよ」


「またか、どいつもこいつも・・ あんな子供を当てにしおって。魔法が使えるからと言っても 結局は王子を守れなかったではないか。魔法ばかり当てにしていると

いけ好かないリンリナルのように成るぞ」


それまで忙しそうに作業していた者達が 一斉に立ち止まり、あたりが急に静寂に包まれた。

そこはかとなく 殺気すら流れ出す。



「近衛のおっちゃん。煩いのは良いとしても、ハルカの悪口は言わないでくれる。

それに、王子様を守れなかったのは ハルカの側に居なかったからよ。勘違いしないでね」


「何っ?。我々の責任だとでも言いたいのか。小娘などに言われる筋合いは無い」


普通の子供なら泣き出しそうな 顔と声に怒りを込めてシシルニアを威圧するが、

彼女は泣くどころか逆にクスクスと笑い出す。


「何がおかしい・・我等を愚弄するつもりか?」


「いいえ、そんな必要は無いもの。

相手を見た目だけで判断しているなら 近いうちに必ず死ぬわ。

世の中も相場も 刻一刻と変っていく、それが見えていない姿がおかしいだけよ」


シシルニアは気が強く 自分が正論を言っている自負が有るので恐れないが、立派な挑発行為である。


「それ以上言えば 子供とて容赦せんぞ。首が無くなる前にうせろ、小娘」


「だから、そこなんだってば!」


「何っ!」


「見た目が子供だと思って ハルカに剣なんて向けたら、おっちゃんは一瞬で あの世行きだからね」


「あー・・確かにそうよね。私も気を付けるにゃ」


周りに居る者たちは納得した顔をして 頷いている者までいた。

気が済んだのか、皆は作業に戻っていった。

シシルニアも言う事を言ったので自分達の馬車の馬をせわに戻って行った。


「何を言ってるのかサッパリ分からんぞ」


取り残されたグングルスはスッキリしない。


「近衛長、あの子に助けられましたね。貸りは後で返されると宜しいでしょう」


「ぬぅ、ジンジニア。・・貸りとはどういう意味か?」


「おや・・気が付かれませんでしたか?。貴方様の命はかなり危なかったのですが。あの子が皆を代表して言いたい事を言った為に助かったのです」


「まさか あの小娘も魔法使いだとでも言うのか?」


王子の従者としてのジンジニアは心の中で深いため息をついた。

近衛騎士が脳筋どころか 石頭で現実が何も見えていないのだ、その姿に呆れを通り越して国の今後が心底心配になる。


「もし 貴方の目の前で、皇太子殿下がバカにされたら いかがなさいますか?」


「決まっておる。そんな奴は即刻切り捨てる」


「貸しとは そう言う事ですよ。・・では 私も失礼しますね。王子が帰られた時の準備くらいしておかないとなりませんから」


恐らく これでも彼は気が付かないだろう。

近衛騎士のリーダーがこれでは この旅も先が思いやられる。




飛竜と分かれたハルカ達は 仲間の所に戻るべく空の上に居た。

ノロはあえて頭の上に乗せている。


オラテリスを杖の後ろに乗せたのは良いが わざわざ首に抱き付いてくる為だ。

空間ごと飛んでいるので 無理に離れなければ落ちる事は無いと説明したのに、

ここぞとばかりにスキンシップを執りたがる。

暑苦しくてイライラするハルカである。



「ノロ・・後でドラゴンに使った魔法を教えて欲しい」


「にゃ?、教えるのは良いけどにゃ、多分 見ていたハルカなら もう使えると思うにゃ」


「どゆこと?」


「ハルカの魔法はイメージを実現するものにゃ。だから 教えて無くても空が飛べたにゃ。魔物の体を流れる血なのだとイメージして魔力の流れを止めると良いにゃ」


「なるる・・」


「・・本来は この程度で納得出来ないはずなのにゃ」


「丁度良い。牛肉が沢山歩いている・・試してみよう」


見下ろすと 巨大な野牛ゴンゴロウが群れを成している。凄い迫力だ。

こんな野獣が群れを作る世界で、人はよく生き延びて来たものである。



「ノロ、少しの間・・飛ばせていられる?」


「飛行は無理かも知れん。浮かせておくだけなら出来るにゃ。もう いいぞ、引き受けた」


ハルカは慎重に飛行の魔法を解除した。

さすがに あの中に落ちたら命が無い。


「ん・・よし。じゃあ 試してみる・・・・・・・ふぅ、どうかな?」



ウムォオオオ・・・・   ドサッ、ドドン、ドスッ、ズズン


シーーーン


一瞬で 騒がしく鳴いていた牛達の声が止んだ。

眼下には50を超える巨体が転がっている。


やがて 命が尽きたのか、次々と 亜空間倉庫に自動収納されていく。

ノロが使ったのは本来は一時的に動きを止める程度しか 効果が無い魔法であるが、ハルカが同じ事をすると 桁違いの威力になるらしい。


不意に ハルカの首に回されていたオラテリスの腕から力が抜けていく。


「こんな場で眠れるなんて さすが王子か」


ハルカは勘違いしていた。

彼は急激なレベルの上昇で気を失ったのだ。


数十頭の魔獣を殺した経験値は絶大だ。

それでもレベルが異常に高いハルカとノロは何も感じない。

しかし、オラテリスはレベルが人並だ。

そんな彼が ハルカにべったり纏わりついていた事で 割り振られた経験値の衝撃をまともに受ける事となった。

三分の一とは言え膨大な経験値が雪崩れ込んだ為に彼は気絶したのだ。

結果として レベルもそれなりに爆上がりしている。


ハルカは無意識に 次代の王を鍛え上げていたのだった。


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